仕事柄、地方公務員とお話しをすることも多いのだが、地方自治体の役所に持ち込まれる苦情には、相当強烈なものがあるということを聞いて、大いに話が盛り上がったことがあった。クレームを生き甲斐にしているような人もいるらしく、こうした人々が、ほぼ毎日のように役所に押しかけ、延々と苦情を述べていかれるのには、ほとほと困り果ててしまい、公務員として、そうした応対に取られる時間は、結局血税の無駄遣いではないのかと、真剣に悩んでしまうこともあるのだという。
弁護士会も、しばしば、そうしたモンスター・クレーマーのために事務が停滞させられてしまうことがある。
横浜弁護士会では、苦情の受付は、まず、「市民窓口」で電話を受け付け、問題のありそうな案件等は、その日の日直副会長が応対を引き継ぐという体制を採っている。
この市民窓口は、主に理事者経験者があと役で引き受けることが多いのだが、過酷なお役目だ。40人の担当者で分担するので、担当するのは、ほぼ2ヶ月に1回と、さほど頻繁ではない。時間も、午後2時から4時までと、そう過重なものでもないのだが、部外者立ち入り禁止の個室をあてがわれ、ひたすら電話で苦情を聞き取るというのは、短時間とはいえ、気の滅入る、とてつもなくつらい作業だ。
もちろん、中には、文句を言われて当然と思われるような、弁護士サイドに問題のあるケースもあるのだが、大部分は、苦情のための苦情としか言いようのないクレームだ。自分の依頼者なら、覚悟を決めて喧嘩を受けて立つということもできるかもしれないが、他人同士の事件であり、しかも、こじらせてしまうと、懲戒請求や弁護士会相手の訴訟を招くということにもなりかねず、多くの人に手間をかけさせてしまうので、なかなか強気の反論もしにくいし、一方的に電話を切ってしまうこともできない。
たぶん、上述の役所の担当者は、いつもこういう思いをしているんだろうなと、改めて気の毒に思う次第だ。公務員の場合、クレーマーの常套文句は「税金を使っているくせに」というものだろうし、だからこそ、役所側もそう無碍にはできないというところなのだろうが、弁護士会が同じような思いをしなければならないというのも妙な話だ。
司法改革論者に言わせれば、弁護士は、経済原則に従って競争にさらされていかなければならないということなのだろうが、実際には、こと苦情に関しては、弁護士会は役所扱いなのだ。今でも弁護士を公的存在と見ている人が多いということなのかもしれない。いいとこ取りならぬ、悪いとこ取り、というところか。