司法ウオッチ<開かれた司法と市民のための言論サイト>

 以前は、法律事務所といえば、弁護士1人、事務員1人の小規模事務所が大半だった。もちろん、企業法務や渉外を中心に大規模事務所はあったのだが、それも東京、大阪の話で、札幌や横浜といった中堅以上の地方都市でも、弁護士が3人もいる事務所は、数えるほどしか存在しなかった。

 そう昔のことではない。せいぜい、20年ほど前は、地方はどこもそんな程度だった。

 横浜弁護士会の会員名簿も、以前は、すべて個人単位で掲載されていたのだが、複数の弁護士からなる中規模の事務所が増えたため、数年前から、個人単位の名簿の巻末に、事務所単位の名簿を併載するようになった。

 きちんと確かめたわけではないが、弁護士1人でやっているという事務所の割合は、ここ数年で、劇的に減少しているように思われる。ちなみに、今、横浜で一番大きな事務所は、弁護士20数名の大所帯だ。東京の大ローファームに比べれば、可愛いものかもしれないが、20年前の横浜を見たことのあるものとしては、時代の変化を感じざるを得ない。

 私自身も、弁護士が4人の中堅事務所に所属していて、今から1人でやってみろと言われても、正直なところ、腰が引けてしまう。

 もともと、弁護士になろうという人は、大半が、高学歴にもかかわらず、官庁や企業への就職をせずにきたわけだから、独立志向は人一倍強い。弁護士のDNAには、効率はともかく、とにかく1人でやってみたいという潜在的な欲求が刷り込まれているはずだ。

 しかし、事務所を借りるにしろ、事務員を雇うにしろ、1人で全部を賄うのは、並大抵のリスクではない。むしろ、どうして昔の弁護士が、皆、1人で事務所を背負っていられたのか、不思議なくらいだ。

 文字どおりの独立を目指す内心の本能と経済効率とをどう折り合わせていくか。この問題は、弁護士なら、誰もが直面したことのあることではないかと思うが、近年は、特に、東京や大阪では、1人で独立するというのが、そもそも選択肢として考えられない状況にあるようだ。

 1人事務所だからといって、事件が集中するわけでもない。昔は、窮状を見かねて先輩弁護士が手をさしのべてくれた、という話をよく聞いたものだが、今は、弁護士全体が余裕が無くなってきているから、それもあまり期待できない。

 独立が、一種のギャンブルになってしまい、どうしても、リスクを減らし、経費を抑えるために、複数の弁護士が身を寄せ合うしかない。それが、現在の、この業界の「独立」なのではないか。

 まあ、それはそれで、仕方のないことなのだろうし、利用者サイドからすれば、弁護士の使い勝手は向上しつつあるということなのかもしれない。

 しかし、ショッピングモールやスーパーよりも、地元の魚屋や八百屋が大好きな天の邪鬼としては、やっぱり、この先も、弁護士の独立志向は失われないでいてほしいと願う。

 効率も大事だろうが、たった1人でも巨大な敵と闘うことができるというのが、この仕事を目指した出発点になっている弁護士は多いと思う。それは、この仕事の、大事な魅力のひとつなのだ。



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