司法ウオッチ<開かれた司法と市民のための言論サイト>

 

 昔の大事務所の弁護士がよくやっていたのだが、事務所に所属している弁護士全員の名前が載った準備書面というのを、今でもたまに目にすることがある。 実際に事件に関わっているのはせいぜい1人か2人くらいのことが多いのだが、延々と弁護士名が書き連ねられていると、我々弁護士は、「鬱陶しいな」と思うくらいなのだが、依頼者には圧迫感があるらしく、「相手はこんなに大勢でかかってきているのに、先生の方は1人だけで大丈夫なんですか」などと尋ねられることがある。

 

 「ほとんどはダミーで、景気づけみたいなもんです」と言うのだが、なかなか不安は拭えないようで、法廷に弁護士が1人しか来ていないのを見て、ようやく安心したと言う人もいた。

 

 一般人へのそうした心理的圧迫を目指してやっていることなのだろうが、零細事務所の弁護士としては、はた迷惑なやり方だなと思っていた。準備書面ならまだいいが、内容証明に大勢の弁護士名が記載されていたりすると、それだけで恐れをなして、弁護士の言うことを聞いてしまうという人もなかにはいるのではないだろうか。

 こういうケースで、懲戒請求が起こされると、話が複雑になる。従前は、実際に事件を担当したのでなければ、ただ名前を出しただけだと言えば、懲戒まではいかないと思われていたように思うが、それでいいのか、という議論も根強くあった。

 

 これを受け、近時、日弁連懲戒委員会は、単に同じ事務所だから名前を出していただけだというのでは、必ずしも懲戒請求に対する抗弁とはならないという見解を明らかにして、弁護士の注意を促した。

 
 確かに、多数の威圧感を利用しておいて、問題があれば自分は関わっていない、というのは、通らないだろうとは思うのだが、逆に形式的に名前さえ挙がっていればすべて一蓮托生だというのも、乱暴な議論のように思える。

 名前が列挙されただけという抗弁が直ちに免罪符になるわけではなく、ケースバイケースで責任を問われることもあるということなら、分からないでもないのだが。私の規模の事務所くらいだと、問題になることもなかろうが、これからはこういう問題も増えてくるのだろう。



スポンサーリンク


関連記事

New Topics

投稿数1,193 コメント数409
▼弁護士観察日記 更新中▼

法曹界ウォッチャーがつづる弁護士との付き合い方から、その生態、弁護士・会の裏話


ページ上部に