大阪弁護士会が、会員のメンタルヘルスケアを始めたというニュースが話題になっている。会員から電話の相談を受け付けるというもののようだが、横浜でも、ぜひ取り入れてもらいたいものだ。というより、日弁連として、業界全体の問題として、考えてもいいことかもしれない。
もともと、勝ち負けという結果に直面することから逃れられない弁護士という仕事は、どう考えても尋常でないストレスにさらされるものだ。仕事自体のストレスはもちろん、対依頼者の間に生じるストレスは、一般の方にも、判検事にも分かってもらいにくい、この仕事特有の過酷な試練といえるだろう。
弁護士会副会長をしていたころ、日直で弁護士会に詰めていると、よく、市民からの苦情の電話がかかってきて、対応に追われることが多かった。横弁では、苦情電話については、まず、「市民窓口」という担当が受けることになっていて、副会長にまで回ってくるのは、えり抜きのやっかいな案件ばかりだったが、その中に、しばしば、弁護士側に健康上の問題があるのではないか、と思う例があった。
実際、苦情を受けて、相手の弁護士に電話をかけ、事実確認をしようとしたところ、実はうつ病で仕事にならないと、逆に弁護士から相談を受けるというようなことが何度かあった。中には、アルコール依存の疑いがある方もいた。
私自身も、いつうつ病になってもおかしくはないだろうなと、常々痛感している。何でこの生活をしていてうつ病を発症していないのか、どこかおかしいのではないかと、むしろその点を医者に聞いてみたいほどだ。まったく、他人事ではない。
しかし、弁護士は、なかなかそんな弱音を口にできない。どうしようもなくなって、同期に相談ができれば、いい方だろう。ほとんどの弁護士は、苦悩を抱え、必死で精神の均衡を保ちながら、孤高の闘いを続けているのだ。士業としてのプライドがそうさせるのか、弱音を吐くことが信用に関わると思うのか、いずれにしろ、我がことながら、やはり大変な仕事だと思う。
大新聞などに言わせれば、「好きでやっているんだから、文句言うな」と怒られそうだが、それだけ過酷な仕事なのだということが、どれだけ世の中に認知されているのだろう。好きで弁護士になったんだから、そのぐらい我慢しろ、というのでは、戦前の日本軍の精神論と変わりはない。そんな精神論がまかり通っているようでは、この先、弁護士だけでなく、この国の司法が液状化を起こし、いずれ埋没して行きかねないのではないか。
弁護士のメンタルの問題は、1人1人の弁護士の問題である以上に、司法の人的基盤を確保するための課題であり、奥行きの深い、重大な問題だ。