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 〈裁判官任命制度と裁判員選任制度の「齟齬矛盾」〉

 

 前記最高裁判決は、判決理由冒頭において、「弁護人小清水義治の上告趣意のうち、裁判員法の憲法違反をいう点について」としてつぎのとおり纏めている。肝要な点なので全文を掲記する。

 

   「1 所論は、多岐にわたり裁判員法が憲法に違反する旨主張するが、その概要は、次のとおりである。①憲法には、裁判官以外の国民が裁判体の構成員となり評決権を持って裁判を行うこと(以下「国民の司法参加」という。)を想定した規定はなく、憲法80条1項は、下級裁判所が裁判官のみによって構成されることを定めているものと解される。したがって、裁判員法に基づき裁判官以外の者が構成員となった裁判体は憲法にいう「裁判所」には当たらないから、これによって裁判が行われる制度(以下「裁判員制度」という。)は、何人に対しても裁判所において裁判を受ける権利を保障した憲法32条、全ての刑事事件において被告人に公平な裁判所による迅速な公開裁判を保障した憲法37条1項に違反する上、その手続は適正な司法手続とはいえないので、全て司法権は裁判所に属すると規定する憲法76条1項、適正手続を保障した憲法31条に違反する。②裁判員制度の下では、裁判官は、裁判員の判断に影響、拘束されることになるから、同制度は、裁判官の職権行使の独立を保障した憲法76条3項に違反する。③裁判員が参加する裁判体は、通常の裁判所の系列外に位置するものであるから、憲法76条2項により設置が禁止されている特別裁判所に該当する。④裁判員制度は、裁判員となる国民に憲法上の根拠のない負担を課すものであるから、意に反する苦役に服させることを禁じた憲法18条後段に違反する。」

 

   しかし、刑事判例集の小清水弁護人の上告趣意を見れば、第一審裁判所は憲法に従った構成がなされなかったというものであり、その理由は「正規の裁判官は憲法80条1項本文前段の規定により最高裁判所の指名した者の名簿によって内閣でこれを任命することとされている一方、裁判員は市町村の衆議院議員選挙人名簿に登録されている者の中からくじによって全くの偶然で選ばれるに過ぎない。その権限は、正規裁判官と対等、場合によってはより強いものである。裁判員の存在を認める条文は憲法のどこにも存しない。裁判員の参加する合議体は憲法32条に定める裁判所ではない。司法権を持たないかかる合議体が刑罰を科すことは憲法31条に違反する。裁判員法は最高法規憲法に違反する無効な法律であり、裁判員の参加する合議体は非合法にして珍奇珍妙な根無し草であり、宙に浮いた幽霊にすぎない。被告人には裁判員裁判を受けない権利は認められていない。正規裁判官に不当評決是正の道はない。また、裁判員の参加する合議体が仮に裁判所であるとしても、予備的にそれは憲法76条2項前段の特別裁判所に該当し、憲法違反である。」というものである。

 

 

   〈「多岐にわたる」という嘘〉

 

    同弁護人は、それに続いて、これまで学説等として述べられた14の文献を列記しているけれども、その文献記載の主張を上告理由として主張するものでなく、単なる参考資料として提示しているものである。そのことは最高裁も了知していたのであろう。それらの文献で取り上げられている問題を上告理由として取り上げて判断することはしていない。

 

   また、同弁護人は、「『裁判員制度』は『違憲のデパート』と言われるほど多種多数の憲法問題を包含している。しかしながら、本件での上告理由としては最も単純で明快な問題として、憲法80条1項本文前段の『正規裁判官』の任命制度、裁判員法の『裁判員』の選任制度との『齟齬矛盾』の問題だけをとりあげるにとどめる(前記刑集P1322(148)、下線は筆者)」、「第一審判決は、刑事訴訟法第377条第1号法律に従って判決裁判所を構成しないことにもろに該当しており、控訴裁判所はこの点の判断を誤っている。」と態々その点のみを上告趣意とするものであることを明記しているのである。

 

   前述した、最高裁が上告趣意としてまとめた部分の冒頭の「所論は、多岐にわたり裁判員法が憲法に違反する旨主張する」との記述は真っ赤な嘘であり、上告趣意書は実に単純明快だったのである。



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