司法ウオッチ<開かれた司法と市民のための言論サイト>

(2012年1月27日、仙台市職員労働組合の講演会から)

 〈不幸が生まれても廃棄しない人間〉

 先日、NHKで放送された「暗黒のかなたの光明」という番組の中の、国立民族学博物館教授の小長谷有紀さんの言葉に大いに惹かれました。要するに、文明の中味である制度と装置を変えるというのは、政府、知事、社長らにはできない。一般大衆、アマチュアが「英知」を結集しなければならないということ、文明にはそういう業があるということです。

 私の話の、もう一つのキーワードはこの「文明」です。原発という装置、裁判員制度という制度もその同じ業を背負った文明なのです。私たちは、その思いでその文明と向き合わければならないのだと思いました。

 先日、さいたま地裁に起訴された殺人事件の関係で裁判員候補者として調査票が送られたのは330人、最終候補者として残ったのは34人ということでした。この裁判員裁判の現状は誰が見ても、裁判員制度崩壊の何ものでもありませんが、それでも裁判所も日弁連も順調な運用だと強弁しています。正に文明の業そのものの現れです。

 あの3月11日の夜、私は空を見上げて驚きました。正に満天の星空、久しく見たことがありませんでした。そのときは、ただ何と綺麗だなと思っただけでしたが、今考えて見れば何と象徴的・暗示的なことかと思います。電気の灯りが全て消えて真っ暗になったとき、これまで見えなかった満天に実に美しい星空が見えた。電灯が灯っているときには、金星とか明るい星しか見えないのに、文明の象徴ともいうべきその電気が全て消えたときに、天に素晴らしい光景が広がったということです。

 私は金子みすヾの詩が好きです。震災後、金子みすヾの詩「こだまでしょうか」が食傷気味になるほど繰り返し民放のCMタイムに流れましたが、私は「星とたんぽぽ」という詩が好きです。

 青いお空の底深く
 海の小石のそのように
 夜が来るまで沈んでる
 昼のお星は目に見えぬ
 見えぬけれどもあるんだよ
 見えぬものでもあるんだよ

 残念ながら、今は昼ばかりではなく夜になっても見える星は金星のような明るい星だけ、美しい星座は見えません。我々の文明は何なのかと深く考えさせられます。文明というのは人間がその幸せのために築いてきた制度であり装置であるのに、それにがたが来ても中々それを廃止出来ないだけではなく、その文明が人間を不幸にする状況、人間を破滅させかねない状況に追い込んでいる。それでも人間はかかる文明を廃棄しようとはしない。

 〈真に恐るべきもの、守るべきもの〉

 我が国は太平洋戦争で2度の原爆投下を受け、それによる被害を含めて数百万の人々が亡くなりました。また侵略によって、周辺諸国の多くの人々を殺害しました。制定の経過については諸説ありますが、その戦争の悲惨な現実を経て、憲法第9条という世界に類例のない戦争の放棄・軍備不保持の規定を国家の基本法に持つという、世界史に残る大変革に踏み切りました。外圧があったかどうかは分かりませんが、素晴らしい決断だったと思います。

 ところが、今その条項は危険にさらされています。そして、今回この原発事故という第2の敗戦を迎え、本来ならいわば原発の憲法第9条を制定すべき状況にありながら、なお原発にしがみつこうとしている人間がいる。私たちは、果たして、福田歓一氏が言われる、人間の尊厳と政治生活とを両立させていると言えるでしょうか。民主主義の本質を保っていると言えるでしょうか。

 私たちは真に恐るべきもの、守るべきものを知らなければならなりません。問題を隠蔽し国民を騙している民主主義を語る権力者達の横暴、それを容認しようとする我々の無知・無関心、それがこわい。そして守るべきもの、それは単なる数では表わし得ない人間、今回の震災による死者、行方不明者の数は約2万人に達しました。そのことは当然ながら痛恨の極みですが、そのこととともに、その一人一人の人間、またその人とともに生きて来た多くの人々の思いと出来る限り思いを共通にすることではないかと思うのです。

 私の所で以前事務員として働いてくれた女性は、3月11日、宮城県岩沼市に住んでいた兄一家4人を津波で失い、実家のある宮城県石巻市では同じく津波で姪の家族、小学生2人を含む4人を失いました。そしてその彼女自身も、その8人の後を追うようにして9月に病気で急逝してしまいました。以前彼女は、その姪やその子らへの思いを綴った手紙を私宛に送ってくれていましたが、その手紙を読み返してみて、ここにもかけがえのない大きな人生があったことを思い、私は胸が締め付けられる思いをしました。

 私はその彼女の思いに近づくことは出来ても、残念ながら同じ思いには至らないとは思います。作家の辺見庸氏は、近著で、「人間存在の根源的無責任」ということについて述べています。我々は残念ながら他者に対し根源的に無責任です。しかし、前述の小長谷さんも述べているのですが、そうであってはならないように努めるべきなのだと、口幅ったいことではありますが思います。 =このシリーズ終わり



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