司法ウオッチ<開かれた司法と市民のための言論サイト>

 いびつな密室の中、刑事裁判では立証できてなかった15万円以外の余罪。これについて聞くと、被告人の母親の表情は一変した。彼女は右手のひらで顎をさすりながら、「娘はそんなに金を盗んでない。知らない。絶対盗ってない。」と一瞬声を荒げた。顔はみるみる赤くなり、こちらを睨みつけた。

 窃盗犯の母親の背後から化け物じみた何かが、飛び出てきそうな威嚇行動。あの時、被告人の母親の感情は「制御不能」に見えた。刑事裁判の法廷で、参考証人として立ち検事に対し、「反省している」「悪いと思っている」と繰り返した謙虚な振る舞いが「偽」に思えた。これが、被害者側家族の偽らざる気持ちだ。

 理不尽なものを感じなから、われわれは冷静を装い、兄は、こう切り替えした。

 「では、窃盗現場の生々しい映像見て下さい。掃除もせず、家の中で必死にお金を探し、窃盗してますよ。見ないと分からない。現実を見て下さい。」

 これに対し、被告人の母親は、苦し紛れに、想像もしない驚くべき言葉を返してきた。

 「問題があったのは、あなたたちの親ですわ。」

 介護ヘルパーを頼む方が悪いとでも言いたいのか?わざと喧嘩を売っているのか? 娘がなぜ盗みに走ったのか理由を突き詰めようとすると逆切れ。我々は、唖然となった。このとき、兄は、相手のなにを理由にしているのか問い詰め、そのあまりの言い掛かりを、一蹴した。この件にはのちに触れることにするが、我々家族からすると、到底許せない言葉であった。

親が子供を守りたい気持ちは分からないではないが、被告人の母親の態度や言動に、怒りが込み上げた。が、一呼吸置いて、裁判所での質問に関連した事実関係を再確認した。今は、まず事件の真相を少しでも把握することだと思った。

 刑事裁判で「謝罪」についての質問が検事からあったが、なぜ、娘が捕まった時点で、「謝罪」に来なかったのか?
 「被告人の母親「最初は、謝罪にいきたかったが、『今は、絶対行くな』と強い口調で言われるから行かないことにした。」

 それを指示したのは誰?
  「被告人の母親「社会福祉法人・重田事務局長(仮名)」

 後ろで糸を引く者の名前が出た。われわれは聞いた。

 「介護ヘルパーとして他人の家に入り、仕事をするふりしながら、老人の命を繋ぐ生活費を盗むことの罪の重さが理解できますか?」
 「窃盗発覚後、娘が雇われてる職場に飛んでいくのも分かりますが、まず娘の被害にあった家に謝罪にいくのが親としての筋じゃないですか?」

 被告人の母親は、黙り込み、「だけど、社会福祉法人が・・・」と、下を向きながらつぶやいた。なぜ、被告人の母親が、社会福祉法人の指示通り動くのか?と疑問が湧いた。事件の真相が公になると都合の悪くなる連中が出てくる。町が母体の社会福祉法人は、いわば、町の外郭団体。様々な思いが浮かんできた。

 刑事事件後の民事裁判を視野に入れ、被告人側の経済面について質問した。

 「あなた方が、まともに話し合いをしないならば、民事を想定せざるを得ないですよ?もちろん、町社会福祉協議会さんにも連帯責任は生じると思いますが」
 「いや、しらない、うちには、金はない。」
 「金がなくても、民事になったら、賠償金が必ず発生しますよ。」
 「知らない。分からない」

 あまりにもお金がうちにはないと強調するので、私は、職業について質問をした。父親はブロイラーの捕獲。被告人の母親と妹は同じ地元企業に勤務。母親の方はその企業でも、主任クラスのポジション。家族みんな働いていて「うちには、金がない」というのは到底納得がいかない。要するに、娘が窃盗した金は払いたくないということか。

 裁判所内で行った会話は、何の進展もなかった。「反省」どころか、鋭い牙をむき出して反撃してきそうな被告人家族の姿勢だった。この様子では、これから何が起こるか分からない。この窃盗犯家族の背後にいる者たちの存在を考えると、こちらも急ピッチで態勢を整えないといけないと、その時、思った。



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