弁護士が辞任し、私たち(原告)のみでの裁判上の手続き(争点整理)に臨むことになったが、依然として、弁護士探しに頭を悩ませていた。
私たちの前には、二つ道が存在していた。一つの道は、このまま、素人が司法の土俵にあがり、しこをふみ、司法のルールに従いながら、「是は是、非は非」という強い意志を示しながら、今、直面している民事裁判を乗り切り戦い抜く。一般的な見方からすれば、あるいは「破れかぶれ」と思われる行為だろうが、この時、既に不思議と「それもありか」という気持ちもあった。
そして、もう一つは、いうまでもなく再度、プロの弁護士を雇い、口はもう出さずに、その方にすべてをお願いするという道。精神的負担を考えれば、必然的にプロの弁護士に委託することが、もっとも無難という結論にはなるし、
これがある意味、世の常識なのかもしれない。
しかし、実際に今回の件で弁護士に接し、雇ってみると、それもまた、精神的な負担であることを、既にそのときに感じていた。この二つのわかれ道で、いまや私の中にはっきりとした葛藤が生まれていた。 弁護士に頼らない道など、当初考えもしなかったことだったが、いつのまにか私たちはその分かれ道に立っていたのだった。
だが、考え過ぎてもらちがあかないと思い、ひとまず私たちなりに、厳選、検討した新たな弁護士にコンタクトをとることにした。東京に戻り、クライアントの紹介である例の著名なN弁護士との接触を図る決心を固め、その一方で、郷里にいる兄の方は、地元のT弁護士に当たることにし、それぞれが行動を開始した。
これからの裁判の流を考えると、引き継ぎ案件のため、果たしてどこまで私たちの状況や主張に納得して、引き受けてくれるのか。正直不安はあったが、N弁護士との面会希望を紹介してくれるクライアントに伝えてみた。すると、偶然にも、そのN弁護士は、別件で用があり、来社しているという。すかさず、私は、駄目もとで、早急にそのN弁護士とのなんとかコンタクトはとれないか、電話ごしで、アポイントのお願いを試みた。
私のクライアントの担当者は、一旦電話を切り、すぐに依頼が可能かいなかどうか便宜をN弁護士にはかってくれたが、結局、すぐに会うという返事はもらえなかった。N弁護士に「依頼」の話をすると、彼の返答は、「どういう案件だ」に始まり、最終的には、事件の概要等を記載した用紙・答弁書の提出を求められたという。
当たり前のことなのかもしれなかったが、当時の私たちの心境からすれば、やはりコンタクトをとることさえ厳しいのか、という思いになった。しかし私、取りあえずその求めに応じることにした。あるいは、その弁護士に会うことができれば、この暗中模索の状態から抜け出せるかもしれない。ひたすらそんな思いで、私は改めて事件の概要をまとめ出した。