司法ウオッチ<開かれた司法と市民のための言論サイト>

 

 改めて選任する弁護士候補をリストアップして絞りこんだが、結局、タイムリミットとなり、弁護士なしでの裁判出席となってしまった。裁判官も弁護士が抜けたことは、承知しているだろうが、その経緯について、当事者として裁判官に直接伝えねばならない、とあれこれと頭を悩ましていた。
 
 しかし、裁判当日、冒頭にこちらとして弁護士辞任の経緯について、裁判官に説明したい旨を申し入れたが、裁判官は無言で、軽く頭を下げ、事情は理解しているといった感じで、あっさり遮られ、言葉を交わすことなく、審理が始まってしまった。

 

 こういうものなのだろうか。あくまで裁判の素人としては、推測すしかなかった。弁護士と依頼人との間の、細かな行き違いやゴタゴタは、裁判所の関知するところではない、ということか――。
 
 しかし、意外なほど、担当弁護士が欠けたこの日の裁判進行自体には、違和感がなかった。むしろ、気になったのは、相手弁護士の態度だ。いつにない余裕の表情には、笑みが見え隠れしているようにも感じられた。それは、背後にいた社協関係者も同様であった。彼らからすると、弁護士がいない相手当事者など、赤子の手を捻る感じで臨んでいるのだろうか。これもまた、素人の心理かもしれないが、逆の立場からはそう思えた。

 
 審理修了後、裁判官の所に行き、今後についての話をしたい旨、入れにいった。
 
 「次回までには、なんとか新しい弁護士を付けてきますので、少しだけお待ちください。裁判官のご面倒はかけないようになんとかやりますので」

 

 裁判官の心証を悪くしないためにも、こちらとしての精一杯の言葉だった。すると、裁判官からは意外な言葉が返ってきた。
 
 「また、弁護士を雇うとお金かかりますよ」
 
 一瞬、耳を疑った。全く想定外の反応だった。と同時に、鉄仮面をかぶっているような裁判官への印象が、この時、大きく変わった。これをどう受け止めるべきか。その時、裁判官の視線は、兄が父親を車いすに乗せる方に向けられているようにも感じた。私は、答えた。
 
 「実は、そうなんですがね」

 

 その後の言葉が、何もみつからなかった。のちに聞くと、私を含め、家族全員が、この日の裁判官の言葉に衝撃を受けていた。本来なら、弁護士がいた方が、裁判官も進行をスムーズにできるはずなのに。なぜあんなことを言ったのだろうか。その時、もっとつっこんで話をしなかったのが悔やまれたが、あの裁判官の言葉は、どういうわけか弱っていたこちらの胸に響いた。
 
 そういう選択肢もあるのか。裁判官の言葉は、ある意味、私の受け止め方としては、「このまま、弁護士なしで司法に立ち向ってこい」と言っているようにも聞こえた。それとも、これはこのまま、示談に運ぶ算段を視野に入れてのことだろうか。
 
 いずれにせよ、依然、先が見えない戦い只中にいることに変わりはなかった。

 



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