あれから、私と兄は、いよいよ私たちの裁判を、弁護士なしで挑むことを視野に、戦術を練っていた。しかし、原告は、家族全員。本当に本人訴訟でいくか否かの最終決定には、家族間での話し合いをせねばならなかった。
これまでの弁護士探しの経緯などを姉たちに説明したうえで、最終的には、「本人訴訟で行こう」と切り出すと、姉たちの表情が一瞬で固まった。そして、さすがに素人が民事裁判に弁護士なしで挑むことは、無謀だと感じたのか、静かに聞いていた姉たちも黙っていられなくなった。まあ、無理もないことではあった。
意見の要になるのは、いうまでもなく、現実問題としてプロの弁護士なしで大丈夫か、とうことだった。いざ、本人訴訟ということになると、当然、いくつか大変な作業を強いられるだろうことは、想定できていた。まずは、最も大変だと思われる陳述書作成、口頭弁論準備書面、それらに付け加えて、私たちがよく理解しているわけではない裁判手続きの流れ――。姉からも、「慣れない素人だと、時間も割かれ、面倒な局面に遭遇するのではないか」という言葉が返ってきた。
この考え方に対して、私も兄も否定するつもりは毛頭なかった。姉たちがこの時、この民事裁判に臨むに当たり、「弁護士がいれば、余計な心配はせずに、紛争を解決してくれる」と考えていたとしても、そこには無理からぬものもあった。当初、私も兄も、全く同様に思っていたのだ。テレビやドラマなどで見るような弁護士対する幻想も持っていた。
私は現実に直面した問題点等を事例に挙げ、姉たちに説明を始めた。当初から弁護士探しについていいスタートは切れてなかった点。そして、ようやく見つけた弁護士がここにきて辞任。さらに、新たなる弁護士を探すため色々と手探りを試みながらがら接触するが、手応えはつかめず、むしろ、司法に対する方々のダークな部分に触れた形にて終わったこと――。
と同時に、現状抱えている問題点も挙げた。これ以上弁護士を雇う話になると、また着手金といった費用がかさむこと。新たなる弁護士を探すとなると、また膨大な時間が奪われること。要は、弁護士選びそのものの、どうにもならない負担とリスクを彼女たちに伝えたのだ。
これを聞いた姉たちは、納得してくれた。姉たちには、私たちの話を聞いても、心のどこかには、計り知れない不安と恐怖はあったと思う。姉たちの真剣な眼差しから、私には、ひしひしとそれが伝わってきた。一方、被害者本人である父親からは、「家族が一丸となれば、なんとか乗り換えられるだろう」という、勇気ある言葉が返ってきた。
ようやく本人訴訟の幕開けだった。