司法ウオッチ<開かれた司法と市民のための言論サイト>

 現在、新64期の司法修習生が、私の事務所に配属されている。自分のときは2年間だった司法修習が半分の期間になり、制度そのものも大きく変わっていて、こちらも戸惑うことが多い。浦島太郎のようなもので、つい、目の前の修習生からいろいろ最新の情報を聞き出そうと、質問攻めにしてしまう。

 私がいつも修習生に尋ねることのひとつに、果たして彼らが、司法試験合格者の増加を是とするのかどうか、ということがある。なにしろ、昔は500人しか合格しなかった司法試験だ。今の修習生は、往年の司法試験であれば、到底合格者には入れなかったはずの人が、大半を占めていることになる。

 修習生としては、自身が合格者の仲間入りができたことに、単純に、合格者増を歓迎するのか、それとも、合格後の過酷な競争を目前にして、自身が受かったあとは、内心、そろそろ門戸を絞ってほしいと思っているのか、意地悪な質問だとは思うが、聞かずにはいられない。

 今回私に付いた修習生は、社会人経験があり、この業界の現状を冷静な視線で客観的に見ることのできる人物だが、彼は、合格者増は大歓迎で、もっと増やしてもいい、という意見だった。

 その彼にしても、過当な競争は、正直なところ、怖いという。

 しかし、全国にロースクールが乱立し、多くの人が、法務博士という、何とも捉えどころのない学位だけを授けられて、社会に放り出されていくのが現状だ。裏返してみれば、彼らは、「司法試験に受からなかった人」という肩書きを背負わされて、就職口を探さなければならない。

 それならば、たとえ、弁護士として食ってはいけなくても、司法試験合格者の肩書きだけでもあった方が、まだ就職口はあるかも知れないではないか、というのである。

 淡々と説明する修習生の言葉に、私はうなった。

 たしかにその通りだろう。修士号を持っていてさえ、就職はままならない時勢だ。わざわざ、法務博士を積極的に採用しようという企業が、この先増えるとも思えない。ならば、せめて、就職の武器として司法試験合格を一種のブランドにするというのも、一つの選択だ。

 むしろ、合格者3000人などという目標は、合格者がみな法曹になるという前提では、端から絵空事に終わらざるを得ない話しだったのだろう。

 しかし、法曹資格が、単に就職に有利な資格の一つとなっていくのは、この国にとって良いことなのだろうか。おそらく、20年後を見ないと、結論は出せないだろうが、心情的には、寂しい限りというのが、正直なところだ。



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