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  平成21年、裁判員裁判の開始とあわせ、被疑者国選の対象事件が大幅に拡大され、多くの事件に、被疑者段階から弁護人が選任されるようになった。これを契機に、国選弁護人の選任方法も大きく様変わりすることになった。

 横浜弁護士会では、被疑者国選の拡大により、弁護人の確保が困難になると予想されていたことから、前年来、何回もシミュレーションを行った上で、対策を準備していた。この結果、国選弁護人の選任方法は大幅に変貌し、現在、横浜の国選への対応は、次のようになっている。

 被疑者国選は、1週間単位で順番を割り振り、担当になった人には、法テラスから、被疑者国選候補事件の一覧表がファックスで送られてくる。弁護士の方は、受け取ったファックスを見て、受任したいと思う事件に○をし、直ちに、法テラスにファックスを送り返す。法テラスでは、ファックスを受け取った順に、いわば早い者勝ちで、事件を割り振ることになる。

 基本的に、受任事件が決まるまで、1週間、これが繰り返される。週末も同様だが、こちらは弁護士が事務所にいないことが多いので、携帯などの連絡先を登録してもらって、そちらに直接連絡が行くようになっている。また、被疑者国選の拡大で、被告人国選だけという事件は大幅に減少するため、被告人国選の方は、1ヶ月単位で順番を割り振っており、担当月は、随時事件の情報が送られてくることになっている。

 事前のシミュレーションでは、特に、小田原などの支部では、被疑者国選の担い手が大幅に不足し、2週間に1回は被疑者国選の担当が回ってくるというような試算もあって、大いに行く末が心配されたのだが、今のところ、大きな問題にはなっていないらしい。

 受け手がいなくて、どうしても事件が余ってしまうような場合は、その週の担当者に強制的に事件を割り振る、ということまで検討されていたのだが、これも、今のところ、杞憂に終わっているようだ。現在、横浜は、毎年100人規模で新人が登録している状況で、こうした若手弁護士が、幅広く、国選の受け手になっているのだろう。

 実際、被疑者国選のファックスが送られてきて、すぐに返信をしても、鼻の差で先に返信をした人がいて、事件がとれないというケースが頻発しているらしい。週末の事件は誰しも受けたくないようで、こちらは、携帯の留守電にメッセージを入れても、返信をしない人が多く、困っていると、法テラスの担当がこぼしていた。その分、平日の国選争奪戦が、更に熾烈を極める結果になっているのかも知れない。

 覚醒剤事件など、コストパフォーマンスがよいと思われている事件などは、ファックスを見たらその瞬間に返信するくらいでないと、とても受任ができないという話も聞く。事務員をファックスに張り付かせておいて、近場の警察で覚醒剤事件が入ったら、弁護士が確認できなくても、直ちに受任の希望を出すようにしているという人もいるようだ。

 被疑者国選の拡大は、弁護士会にとって、悲願の一つであったわけだし、その担い手が増えているというのも、喜ばしいことではあろう。この分野についていえば、まさに、司法改革の目論見通りというところか。しかし、私には、どうも、司法改革の成果と言えるのが、この国選改革ぐらいなのではないかという気がしてならず、そうだとすると、得たものに比べて、失ったものの方が、あまりにも大きすぎたと思えてならない。

 少なくとも、国選が増えただけ、弁護士が食えるようになったとは、とても思えないのだ。弁護士の裾野を広げ、国選でもまじめにやっていれば何とか食えるという弁護士を確保していこうとするなら、1件当たりの国選報酬は、最低でも20万円は必要なのではないか。ボランティアのプロボノ活動であって、若手弁護士のお小遣いになればいいというのならともかく、事務所を維持するには、ある程度の経費はどうしても必要だ。1件10万にも満たない報酬では、毎週ひたすら国選に励んだとしても、正直なところ、全くの赤字にならざるを得ない。

 多くの弁護士は、国選だからといって手を抜くようなことはしないのだが、増員の結果、他に事件が無いという状況になれば、多少手を抜いてでも、数で稼ごうという弁護士が出てきてもおかしくはない。国選爺さんの弊害が、また繰り返されることになりかねないのだ。

 日弁連も努力はしていて、国選報酬は増えてきてはいるのだが、増員された弁護士が事務所を維持できるかどうかという視点からは、残念ながら、まだまだ不十分だといわざるを得ない。



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