司法ウオッチ<開かれた司法と市民のための言論サイト>

 〈独占の罪と救われた300万人の多重債務者〉

 「過払い金バブル」により、利益を得た第一人者は誰なのか。それは、弁護士独占時代(自己破産1名100万円と言われていた時代)には考えられない低価格の法律サービス(今では必ずしも安いとは言えないが)を享受出来るようになった、300万人といわれていた多重債務者、消費者債務者だったのだ。

 とすれば、その多重債務者、消費者債務者達に利益をもたらしたのは今でも「債務整理案件は月約1500件・・そのうち、過払いが・・3から4割くらい」(石丸弁護士)を稼ぎ出している、「アデイーレを初めとした振興の弁護士法人」たちなのではないか。

 1990年代には、本来なら自己破産しないで済んだ、むしろ逆に過払い金が戻っていたかも知れない多重債務者たちが自己破産か夜逃げを強いられていた。その頃の多重債務者達の悲惨な様子は、花伝社の「地獄からの生還」(被害者の会編)に詳しい。

 当時、司法書士の私には裁判書類の作成権限しかなかったから、自己破産案件しか扱えなかったが、その自己破産案件を通して、多重債務者悲惨の原因は実は債務整理案件等の弁護士独占とそのカルテルにあるということが見えていた。そのことは法律新聞にも書いたことがある。

 弁護士、司法書士の「過払い金バブル」は、確かに司法制度改革によってもたらされたものであるが、それ以前の、弁護士、司法書士の広告と価格競争が禁止されているような状況では、労働組合、左翼団体、宗教団体などにコネのある弁護士、司法書士でなければ、依頼人の多重債務者とコンタクトすることすら困難な状況があったのである。わずかに弁護士会、司法書士会で主催する相談会で依頼人と接触出来るが、配分でのゴタゴタは当然に生ずる。今でも法テラスからの事件配分について不満の声があがっている。

 司法制度改革により、弁護士、司法書士に競争政策が導入され、広告と価格競争が解禁されるやいなや、まずはホームロイヤー(現ミライオ)の自己破産25万円の電車広告が刺激的に人々の目を奪った。規制時代には宇都宮自己破産マンガ本が、規制をかいくぐるように書店に並んでいた。

 解禁当時は、弁護士が宣伝して商売するなんて下品だという一部国民感情もあった。その国民感情を背に、宇都宮弁護士指導の「クレサラ被害者の会」とそこに所属する弁護士司法書士たちは、債務整理市場にメデイアやホームページを通して参入してくる弁護士司法書士達を、大衆の苦難を食い物にする商業主義弁護士司法書士・・いわゆる悪徳弁護士司法書士、提携弁護士司法書士と盛んに非難し、彼らの独占市場を防衛しようとした。宇都宮弁護士指導の「クレサラ被害者の会」も団体と独占が大好きなのだ。正義のために手段かまわず反党分子排除というボルシェビズムの論理が生きていた。

 社会主義が崩壊し、わが国左翼も総崩れし始めていたその時代に、弁護士界司法書士界においては依然としてユートピア信仰と市場経済撲滅、競争反対を正義とする人達がはばを利かしていた。被害者の会の正義の力では、それが彼らの目的であったにも関わらず、消費者金融業界を壊滅寸前にまで追い込むことは出来なかった。消費者と市場の力が、消費者金融業界を滅亡させたというよりも、消費者金融の世界を適正化したのだと言える。

 石丸弁護士のサイトによれば、石丸事務所には100名の弁護士司法書士がいるという。債務整理案件が月1500件ということだが、一件の報酬を30万円とみれば、月の売上げは4億5千万円という事になる。年間にすれば、54億円の売上げとなる。そうすると弁護士司法書士は、一人当たり毎月450万円の売上げ、年間一人5400万円を稼いでいるわけだ。

 この石丸ビジネスを弁護士の「自由と正義」に反すると言えるだろうか。商業主義に堕落していると年寄りは表情を歪めて非難するかも知れない。正義派弁護士に染み込んだ貴穀卑賤の思想から見れば卑しさに反吐が出そうになるかもしれない。私はそうは思わないが、しかし、それにも関わらずこの石丸ビジネスには正直言って胡散臭さを感じないでもない。その理由は次回以降。



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