司法ウオッチ<開かれた司法と市民のための言論サイト>

 

 もはや執念としかいいようがない、共謀罪成立に対する、この国の権力の姿勢をわれわれの社会はどうみているのだろうか。小泉政権下で3回にわたり、法案が国会に提出され、処罰対象の拡大のおそれなどを中心に批判を浴び、廃案となった経緯がある代物である。

 

 既に伝えられているところによれば、政府は共謀罪を「テロ等組織犯罪準備罪」という名称に改め、適用対象を「4年以上の懲役・禁錮の罪を実行すること」を目的とする「組織的犯罪集団」とする。また、構成要件に「準備行為」を付けくわえ、「犯罪の実行のための資金または物品の取得」という代表的な事例を条文に明記するという。一般人や労組まで対象となるとか、話し合っただけで処罰されるといった、これまでの批判をかわす狙いがよみとれ、これまでの対象拡大批判を強く意識していることが分かる。

 

 しかし、よく見れば、胡散臭いことこの上ない。「組織的犯罪集団」の認定は捜査当局の解釈次第だし、「準備行為」の範囲も明確とは言い難い。そもそも負2007年に自民党小委員会が対象犯罪を140くらいまで絞りこんだ案をまとめていたにもかかわらず、今回は政府原案同様、罪種は600を超えるというのであるから、懸念は払しょくされていない、というよりも、むしろ法案の本質はいまでも透けて見えているというべきである。

 

 そもそも新設の理由として引き合いに出される国際組織犯罪防止条約の締結にしても、現在の法制度に基づくことが可能であることには変わらない。

 

 しかし、なんといっても私たちが見落としていけないのは、今回の法案が「テロ」と「オリンピック」を引き合いに出して、成立にこぎつけようとしている点だ。この法律の通称名に「テロ」を冠して、テロ対策イメージを強調、さらなに4年後の東京オリンピック・パラリンピックをにらみ、テロ対策が必要であるという文脈にこの法案を位置付けようとしているのである。

 

 国民のなにある「不安」は常に、治安対策に利用されるおそれがある。治安対策ならば、結構ではないかでは済まない。そのときこそ、国民にとってではなく、権力にとって都合のいい治安対策を作られる好機になるからだ。加えて参院での自民党単独過半数、一定水準の内閣支持率確保という状況で、ここで成立させるという、いわば法律の中身とは関係ない、いや、むしろそこから国民の目を遠ざけて実現できるという、これまたみえみえの見通しがあるといわなければならない。

 

 だからこそ、求められているのは、冒頭の問いかけであるはずだ。本質は変わらない、ただ批判をかわそうとする意図しかよめない内容の変更と、オリンピックを控えて、「テロ」への不安を利用する姿勢。それらはすべて、この法案の対象拡大批判のハードルをなんとか下げ、この法律を成立させたい側の思惑の反映でしかない。わたしたちが、それをはっきり見抜き、再びこの法案に厳しい眼を向けられるか、それが試されているのである。

 

 共謀罪という武器を手にしようとしている捜査当局と、この法案をなんとしてでも通そうとしている権力の手法に対する絶対的な不信感が、今、私たちには必要なのである。



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