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 日本が戦後、海外で武力行使をしなかったのは、「憲法9条があったから」と考えている人は75%――憲法をめぐり、こんな興味深い世論調査の結果が報じられている。共同通信が憲法公布70年に当たり、今年の8、9月に実施した結果である。9条の存在とは「関係ない」とした22%にとどまった。

 

 ストレートにとれば、8割近い国民が、戦争に日本が巻き込まれなかったのは、9条のお陰ととらえている。しかも、設問を正確にとらえれば、加害者としての関与ととれる。9条が戦争関与への抑止力として、国家を拘束した、そういう力を持っているということを、多くの国民は実感しているととるのであれば、その意味は大きい。

 

 ただ、報じられているこの結果だけから、これを9条改正反対の世論とは直ちに結び付けられない。いうまでもなく、この拘束をこれからもよしとするのか、否かは、この回答からは必ずしも読みとれない、とされてしまうからだ。要は、海外でのなんらかの武力行使もやるべき局面があったとか、今後やむを得ないと考えている人も、「できなかった」理由としてここに一票入れている可能性もある。9条が拘束して来たことにだけ、賛同したのかもしれない、ということになる。

 

 それを裏付けるように、9条改正に「必要ない」とした人は49%だったものの、「必要」とした人も45%いる。戦争そのものを肯定している人がいないとはいえないが、そうでなくても、なんらかの武力行使が必要な局面を認めたい人からは、戦後71年間にわたるこの条文のもたらした非戦の効果は、必ずしも「功績」ではなく、将来にわたっては捨てことも辞さないものである現実をみる思いになる。

 

 この世論調査では、安倍晋三首相の下での改憲に反対55%、賛成42%、7月の参院選で改憲は争点だったと「思わない」71%、「思う」27%と、同政権下での改憲には警戒感や慎重さを求める意識をうかがわせる。しかし、同参院選の結果、安倍政権下での改憲に賛同する勢力が衆参両院で発議に必要な3分の2以上の議席を占めたことは「よくない」51%と過半数を占めたものの、「よい」とした人も46%おり、さらに改憲そのものは「必要」「どちらかといえば必要」が58%が、「必要ない」「どちらかといえば必要ない」の40%を18ポイントも上回っているのだ。

 

 安倍首相は、国会で今後の憲法審査会の議論の重要性を強調するが、自民・改憲勢力は、基本的には世論に理解されやすいところから切り込む、いわゆる「お試し改憲」路線で突破口を開こうとしている。そこで「緊急事態条項」などという、およそ「お試し」では片付かない危険な新設案が登場していること自体問題だが、それもさることながら、今回の調査からみえる世論状況は、「お試し」路線の格好の舞台になりかねない危機をはらんでいる。「なんらかの改憲」という捉え方の世論のハードルは決して高くないようにみえるのだ。

 

 そして、その次に本丸9条改正に必ず火の手はのびる。「お試し改憲」は「お試し」というより、世論の外堀攻略といえるものになるのである。

 

 「そもそも憲法改正の必要はない。私は逆に『いまの憲法に一体何の問題がありますか』と問いたい。幸福追求権(13条)、法の下の平等(14条)、表現の自由(21条)、家族のなかの個人の尊厳と男女平等(24条)、生存権(25条)など、現代の日本社会にはまだ本当に実現されていない。憲法を変えるのではなく、憲法を生かすことにもっと力を入れるべきだ」

 

 10月28日付け朝日新聞朝刊の連載企画「憲法を考える 各党に聞く」で、社民党の福島瑞穂副党首は、こう語り、憲法審査会での議論に意欲を示している。自民憲法草案には、まさに拘束する相手を本来の国家権力から国民に転換するような発想があるが、憲法がもっと権力に目を光らせ、それが社会に生かされる方向を私たちがまず向かなければならない。

 

 「共同通信世論調査 安倍政権下での改憲に反対55%」(毎日新聞10月29日付け朝刊)



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