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〈論説①の意見について~法令審査権の性質を覆す根本的議論に〉

 
 裁判所法10条の柱書は「事件を大法廷又は小法廷のいずれで取り扱うかについては、最高裁判所の定めるところによる。但し、左の場合においては、小法廷では裁判をすることができない。」と記し、その2号において一つの事態として「前号の場合(筆者注:当事者の主張に基づいて法令の憲法適合性が問題とされた場合)を除いて、法律、命令、規則又は処分が憲法に適合しないと認めるとき」を定める。

 
 刑事訴訟法411条は、「上告裁判所は、第405条各号(筆者注:上告申立理由)に規定する事由がない場合であっても、左の事由があって原判決を破棄しなければ著しく正義に反すると認めるときは、判決で原判決を破棄することができる。」として「判決に影響を及ぼすべき法令の違反があること。」等を定める。その法令の中には憲法も含まれるから、原判決に憲法違反が認められれば、上告趣意にそれが掲げられなくても、最高裁は破棄することができるということである。

 
 裁判所が憲法81条によって与えられている法令審査権は、具体的事件を離れたいわゆる憲法裁判所的法令審査権でないことはもはや異論を見ない。上告人が最高裁判所に求める判断は当該事件の結論に関係がある場合であり、且つ、上告人が上告理由としない事由については、それが憲法に違反して原判決を破棄しなければ当該事件についての適正な判断をしたことにはならない場合に限定されるのであって、上告理由としていない事項について法令合憲と判断することは、裁判所が具体的な争訟を裁判するために必要な限度において法令の合憲性を審査する権を有する(宮澤コンメンタールp692)との憲法81条の立場からして許されることではない。

 
 大法廷判決の事件は、1審千葉地裁で懲役9年、罰金400万円の刑が科せられた女性被告人について、東京高裁が控訴を棄却した事件の上告審である。大法廷判決は、弁護人の上告理由について判断遺脱をしたものであって正しい判断を示してはいないけれども(拙著「裁判員制度はなぜ続く」p118以下)、それはさておき結論として上告を棄却し上記刑を確定させている。

 

 弁護人が上告理由として掲げた裁判員法の憲法80条1項、76条2項、その他事実誤認、量刑不当の上告理由を全て排斥し、それ以外の憲法76条3項、18条適合性の判断を示すまでもなく、同一結論に到達している、つまり「破棄しなければ著しく正義に反する」と認められる場合ではなかったのであり、憲法18条、76条3項の適合性に関する判断は同事件については判断を要しない余計なものであり、憲法81条の法令審査権を逸脱する判断である。

 

 仮に、論説の所論のような主張を認めれば、これまでに共通の理解とされて来た裁判所の法令審査権の性質を覆すものとして根本的議論が必要であろう。裁判所の憲法判断は、飽くまでも当該事件の解決に必要な範囲内でなされなければならない(最高裁昭和27年10月8日民集6巻9号p783、宮澤コンメンタールp691)。

 

 柳瀬氏はその点の考察を全く欠いている。裁判所法10条2号は、当事者の主張がなくても事件の正当な解決のためには必要な「違憲」判断を必要とするときのみに大法廷に回付することを定めているのである。



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