司法ウオッチ<開かれた司法と市民のための言論サイト>

 

 権力を信じるか信じないのか、あるいはどこまで信じるのか――。民主主義社会を維持していくうえで、結局、ここが基本的な問題であるということを私たちは知っていなければならないはずである。あらゆる制度構築や運用の場で、権力の判断に委ねることを正当化する彼らの論理の危さに、どこまで国民側がこだわるかの問題である。

 

 権力が正しい判断をするととらえてしまう、この国の国民の感情には、実はかなり根深いものがあるようにみえる。お上に従うのが無難という従属意識もあれば、「民主的」にコントロールされていることがあるべき姿として、権力を頭から疑うことを、望ましくないものようにとらえる見方も登場する。

 

 だが、残念ながら、国民の信頼は裏切られる。コントロールはすべきであったも、コントロールしきれないまま、国民が従わされることもある。国民の信頼のうえに、彼らは裏切ることのできる力を得てしまう。ならば、コントロールのためにこそ、強く疑うことから始めなければならないのは当然なのである。不信は理想的には望ましいことでないとしても、常に不信から入らなければ、民主主義も、国民自身も守れない。

 

 それは、歴史が教えている教訓である。誤判・冤罪の端緒になった捜査においても、運用対象が当初の話から権力側の都合で拡大する法制度にあっても、私たちかまず教訓として受けとめなければいけないのは、権力に対する油断であるといわなければならない。

 

 最近も、デモや報道規制への懸念が指摘されながら、3月29日の東京都議会で成立した改正迷惑防止条例をめぐっても、いつもながら権力側からは繰り返し懸念を杞憂のような弁明が繰り出されている。

 

 「正当な理由で行われる市民運動や取材活動等は、取り締まりの対象となるものではない。他の目的のためにこれを濫用するようなことがあってはならないと、濫用防止規定が定められている」(市村諭・警視庁生活安全部長)
 「基本的にはないというふうにお答えしたいと思う」(小池百合子都知事)
 「(警察が恣意的に対象を拡大すれば、自由な表現活動が制限され、労働運動、不買運動やマンション建設反対運動までが規制されるいう懸念に対し)、「まったく想定していない。政治活動や労働運動といった正当な理由がある場合には除外される。(中略)客観的に見て危険なものを止めるということ」(川松真一朗都議)

 

 これらは、国民の当然の懸念に対して、何の安全材料にもならないとみなければならない。いうまでもなく、「正当な理由」「基本的には」「客観的に見て」という、権力に判断が委ねられていることを前提したワードがちゃんと付け加えられているからだ。

 

 宇都宮健児弁護士は、こう語っている。

 

 「その『正当な理由』の解釈そのものを警察が判断してしまうので、縛りにならない。『デモは対象としない』くらい書かなければ濫用は防げない。2013年に特定秘密保護法ができて、昨年共謀罪法が制定された。その流れで危険性がある。集会、結社、表現の自由は民主主義社会で基本的な人権なのに、日本社会は口封じする方向に向かっている」
 「法律はできると一人歩きしてしまう。国旗国歌法を作るときに、当時の野中広務・自民党幹事長は『絶対に強制』しないと答弁した。ところが東京都は国歌斉唱で起立しない教師をどんどん処分していった」(Abema TIMES)

 

 まさに、その通りであり、あくまで国民の当然の懸念である。しかし、私たちに問われているのは、実はまずその前提になる問題だと思う。要するに、なぜ、権力サイドは常に堂々とこういう制度を作ろうとし、そして、いつもながらの理由にならない弁明を繰り出す、あるいは繰り出せるのか。それは、とりもなおさず、それで十分いけるという確かなヨミがあるからなのである。

 

 この程度の「杞憂」論で懸念を最終的におさめてしまえる民意、国民の「信頼」がある、という侮りである。そして、それを侮りととらえさせないのが、その信頼ということになる。

 

 この国のありとあらゆる制度と、その運用で、この侮りと裏切りが現実のものとして、浮かんでる。「森友問題」をめぐる公文書改ざん事件ももちろんそのうちの一つだ。そして、今、この国の政権が憲法改正を目指すという。いつものように、国民から出される懸念に対し、根拠のない「ありえない」論が、これで十分という国民に対する侮りをもって繰り出されるだろう。

 

 裏切れる余地がある、枠組みそのものを作らせないところまで、この国の国民が、権力を疑えるか、そのことにこの国の民主主義の未来がかかっているといっても、家決して過言でない。



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