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 〈国家権力が強制してはならない道徳・倫理〉

 2016年12月、宗教・哲学研究家の瓜生中氏の次の文章に遭遇し、深く共鳴しました。紹介します。

 「再来年から小学校、その翌年から中学校で『道徳』が正課になります。たしかに道徳は社会規範の根幹ではあります。しかし、それは時代によってかわるもので、普遍の真理とはいえません。さらに、道徳教育はときの国家権力の意思によって左右される危険に曝されています」

 同感です。私もそのような危険を感じるものですから、拙著「田舎弁護士の大衆法律学」の「新・憲法の心、戦争の放棄」シリーズの第11巻「マインドコントロール」において同趣旨のことを述べました。

  道徳や倫理は、社会規範の根幹ではありますが、普遍の真理ではありません。国家権力によって強制すべきものではありません。国家権力は、道徳観、倫理観、価値観の多様性を認め、少数意見にも耳を傾けることが民主主義であることを忘れてはならないのです。これに比べ、「戦争はしてはならない」ということは、普遍の真理です。

 さらに、瓜生氏は次のように続けています。

 「明治以降、戦前までの日本は儒教的な色彩の極めて強い倫理、道徳を小学校の低学年から教え続けてきました。いわゆる家父長主義、忠君愛国の道を強要してきた結果、一部の人間が軍国主義に走り、太平洋戦争に突入していったのです」

 これも全く同感です。このことは、前同シリーズ第12巻「愛国心」で詳述しました。是非お目を通して下さい。瓜生氏の文章に接し、心強くなりました。このような考え方は少なくないと思いますが、思うだけでなく発言してほしいのです。


 〈森友問題の本質〉

 教育勅語を暗記させようとしている私立小学校が開校されようとし、その用地である国有地売却に関し、国会で議論されました。その校名が「安倍晋三記念小学校」などという校名だったとか、その名誉校長が安倍首相の奥様だったなどという話も出されましたが、このような流れを見ますと、戦前に戻したい輩もいそうです。

 マスコミも国民もこの問題は、とことん追及すべき問題です。他の問題にすり替えられないようにしなければならない問題です。この時期、瓜生氏のこの文章は一層輝いて見えます。

 国の財産を、総理大臣の妻が名誉校長をしている学校に安く払い下げたという問題以上に、幼稚園児に教育勅語を暗記させている問題の方が、はるかに重大な問題です。マスコミも国民も、もっとこの問題を問題としなければならないのです。野党の国会議員の先生方やマスコミに頑張ってほしいと心の底から願ってやみません。

 戦後も74年を過ぎ、戦前を体験した人は、どんどん少なくなっていきます。戦争の悲惨さを身を以て体験した人は、そう遠くないうちにいなくなります。戦争はみじめで、むごたらしいものです。「戦争はしてはならない」ということを戦争を知らない子どもたちに伝えたいのです。

 倫理、道徳は、国が強制すべきではなく、事実を知り、体験を積み重ね、自ら考え出す知恵から生まれるものです。その知恵が育つように少しでもバックアップしたいとの思いでこんなことを書いてます。

 物欲・金銭欲、名誉欲、権力欲の権化と思える政治家や企業化の倫理、道徳観を、国家権力を以て押し付けることは絶対に阻止しなければ戦争に突入しかねないのです。「戦争絶対反対の心」は、戦争に向かう流れの中では言えなくなります。そういう流れになる前に芽を摘むことが大事なのです。平和な時代のうちに言うべきことは言わなければならないのです。

 「戦争こそわが国民を、わが国家を守る唯一の方法だ。戦争に反対する者は非国民だ、国賊だ」というレッテルを貼られるような国になったら戦争はもう止められないのです。しかも、21世紀以降の戦争は防衛手段に止まらないで、敵・味方を全滅させ、人類滅亡、地球壊滅に向かうと認識しなけれはならないのてす。これからは、戦争は防衛手段となり得ないのです。

 多種多様の欲望のうと、「戦争をしたい」という欲望だけは完全に捨てなければならないのです。平和が維持されている今のうちに、そのことを繰り返し述べて、国民一人一人、特に将来を担う子どもたちに知ってほしいのです。教育に対する国家権力の動向に対しては、鋭い監視の目を向けなければならないのです。

  教育勅語を幼稚園児に暗記させるような教育に賛同し、それをバックアップするような国会議員などを選挙て当選させてはならないのです。森友問題は、ここにこそ大きな問題が潜んでいると思えてならないのです。森友学園が、国から財産を騙し取ったという問題にすり替えられてはならないのです。

 教育勅語を、声を張り上げ唱和する幼稚園児、安倍首相を称える園児の声、戦前の軍国主義日本か北朝鮮にいるような違和感を覚えなかった人がいたとしたら、心の底から「どうなっているのだろうか」という不安が湧いてきます。

 (拙著「新・憲法の心 第22巻 戦争の放棄〈その22〉」から一部 抜粋)


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