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 〈「品位」規定は内容が曖昧不明確〉

  (以下、上告理由書引用の続き)

 第4 しかしながら、被上告人の「消費者金融会社の敷地内やこれに近接する場所で利用者を待ち受けて声をかけチラシを配布するなどして、過払金返還請求事件や債務整理事件の勧誘をしないこと」という注意勧告は、憲法31条で禁止されている「過度の広範性、漠然性、曖昧性のある文言」を含む規範規則第3条6号の無効の規定によって、上告人に与えられた表現の自由権を侵害するものであるから、被上告人は憲法21条1項に違反し、よって、その注意勧告は、民法第90条の公序良俗に反して無効である。

 被上告人らが、規範規則第3条6号の正当化の根拠としている東京司法書士会の会則101条「会員は、虚偽もしくは誇大な広告又は品位を欠く広告をしてはならない」中の「品位を欠く広告」という規定は、以下に述べるように、憲法22条、憲法31条に違反している無効の規定であって、それを法務大臣が認可、処分したものであるから、その無効な会則部分を根拠とした東京会広告規範規則第3条(6)「司法書士の品位又は信用を損なうおそれのある広告」という規定は、(委任の)根拠とする規定が無効なのであるから当然に無効である。

 規範規則3条6号中の「信用を損う怖れのある広告」部分は、東京司法書士会総会決議で加えられたもので、その規定中の「信用を損う怖れのある広告」の部分は、東京司法書士会会則101条からは委任されていない。品位と同様、信用もかなり幅の広い解釈を許す文言である。そのような内容不確定の文言による規制では執行者の思い付きや偏見、直観により、恣意的に、会則名義で国民の権利義務が侵害される恐れがある

 司法書士は国民であると同時に、司法書士会という強制入会団体に入会して会員となっている。そして、3条業務を職業の糧とする国民となったが、その職業の遂行については、今日においては、各会員事業者に、はっきりと、価格と広告の自由、すなわち憲法上の営業の自由が、司法書士法、命令及び法2条の目的規定に反しない限りにおいては認められている。今日では、司法書士も弁護士も、資格の如何に関わらず、自由競争市場の参加者の一員となった。従って、法令に違反しない限り、司法書士の営業の自由(憲法22条1項)、表現の自由(憲法21条1項)については、政府監督下にある強制入会団体の執行部においても、その監督者、国においても、司法書士会員である国民の憲法上の権利として、その自由は十分に尊重されなければならない。登録司法書士が、司法書士法以下の規制に服するとしても、個々の司法書士に対しては、その規制の目的と手段について、その正当性、必要性、等についての合理的な理由と説明、その規制の根拠となる立法事実についての事前の説明は必要である。

 第5 さて、本件で、一審、原審が、ともに、請求棄却の理由とした、法務大臣の認可した会則101条中の「品位を欠く広告」、これを根拠とした東京司法書士会規範規則第3条(6)「司法書士の品位又は信用を損なう怖れのある広告」の規定は、税関検査事件判決:最高裁判所判例(昭和59年12月12日大法廷判決)にもあるように、内容が曖昧不明確の故に憲法31条(適正な手続き、法規定の明確性、過度の広汎性)にも違反する規定であり、無効であると言わざるを得ない。

 実に「品位」という言葉には、自由自在に意味充填が出来、それに法規範性をもたせれば、執行者は全く恣意的に思いつくままに人権を無視した規制を作り、「品位信用」名義で人々を統治支配することが出来る。戦前ファシズム全体主義の時代には、このような抽象的で感情に訴えるような内容不確定な文言が、法規、行政命令の至る所にちりばめられていたことを忘れることは出来ない。

 「東京司法書会の明治記念館での賀詞交歓会会場に来た来賓に対して自己の事務所の広告をする意図をもって名刺交換するような司法書士の行為は、東京司法書士会規範規則第3条(6)「司法書士の品位又は信用を損なう怖れのある広告」に該当するというような、常識からみれば行き過ぎた判断評価を執行部がして、よって来賓に対して自己の事務所の広告をする意図をもって名刺を配る行為は、規則3条違反の疑いがあるとして、それを理由に、司法書士に対して注意勧告をし、規制することが容易にできる。このような場合、今日の現実においては、ほとんどの司法書士は、不満を持ちながらも、そのような執行部の行き過ぎた規制に甘んじてしまう。さらに、規定によれば、注意勧告に二度違反すれば懲戒の対象ともなりうるので大半の司法書士はそのような不当な広告規制にも従ってしまうことになるのである。

 かくして、あらゆる立法について言えることであるが(憲法31条)、法務大臣認可の会則含む法令においては、その規制文言は、明確、具体的、厳格に明記されていなければならない。そうしないと、強制会である司法書士会会員に対する人権侵害が、強制会執行部の恣意的な会則の解釈、規則の適用、運用によって、容易に引き起こされてしまうことになる。

 さて本件、東京司法書士会の注意勧告は、上告人の広告表現行為を、本来無効であるべき会則の「品位を欠く広告」、これに基づき制定した東京司法書士会規範規則第3条(6)「司法書士の品位又は信用を損なう怖れのある広告」のみを理由に、禁止の具体的な理由の説明も広告受領者である国民からの上告人への非難や損害の証明も無く、上告人の広告を禁止したものであるから、よって、被上告人の広告禁止処分は、上告人の表現の自由権、憲法21条1項の権利を侵害するものであり違憲無効である。




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