司法ウオッチ<開かれた司法と市民のための言論サイト>




 

 かつて分譲マンション内で日本共産党のビラを配布した行為が、住居侵入罪に問われた事件があった(いわゆる「葛飾ビラ配布事件」。2009年最高裁で有罪確定)。裁判は市民の意見表明の手段であるビラ配布という、表現の自由への制約と、マンションの共用部分に立ち行った行為の違法性が問われるものとなった。

 司法判断そのものは、マンション管理組合の意思への違背、生活者の平穏の侵害に重きを置き、表現の自由があったとしても、居住者には、住居へ立ち入って政治的意見を表明されることを受忍する義務はない、という立場であった。

 しかし、この事件と司法の結論に触れたとき、別の観点で違和感を覚えたことを記憶する。それはビラを配布される側の視点である。この事件では、共用部分ということが問題の焦点となっていたが、一方でかつて政治ビラ・商業ビラを問わず、存在していたポスト投函への社会の寛容さがなくなりつつある現実があった。つまり、既に一括りに「迷惑行為」に括られる社会的ムードは出来あがっていたということである。

 しかし、このムードの中では、前記司法判断の結論にかかわらず、ビラを配布される側の「知る権利」は、すこっと抜け落ちる。政治的情報にせよ、商業的情報にせよ、住民の中に「知りたい」人間が、本来受け取れる情報を受け取れないことが起こり得るということになる。

 有り体に言ってしまえば、どのようなビラが配布されようとも、被配布者は本来主体的にその必要性を判断して、取捨し、不必要なものはゴミ箱に捨てればいいだけである。要はそのゴミが増えることと、その煩雑さを甘受してまで、住民が情報へのアクセスと主体的判断を求めるか、なのである。

 これは、やはりとても危うい状況につながるようにとれる。つまり、市民社会がビラという情報伝達手段を、前記したように手間や煩雑さ、さらには前記司法判断の触れる「平穏」といった事情が被せられ、「迷惑行為」と位置付けられる現実があるほどに、本来市民が受け取るべき情報、逆に権力側が受け取らせたくない情報も、伝わらない、伝えさせないことが容易になるからである。

 これは、情報にアクセスし、取捨したい側からすれば、逆に「迷惑」な状況になるはずだが、別の見方をすれば、手間や煩雑さを嫌う市民側の隙をつかれ、情報が統制される危険がある、ということでもあるのだ。

 なぜ、今、このことを取り上げたかといえば、それはビラ配布を巡る問題にとどまらず、昨今の政府・メディアと世論の状況が、このことを想起させるからである。私たちの社会は、情報へのアクセスと取捨する手間の重要性にこだわっているだろうか。そして、そのために政府・メディアにフェアな情報提供を求めているだろうか。

 ネット時代になり、マスコミの偏向性の問題が一部で指摘されているが、それでもこの社会では、マスメディアの情報に盲従する大衆の傾向は存在している。あらかじめ彼らが取捨した情報、「フェイクニュース」認定だけが流される状況に安住せず、賛否、少数多数説含め、あくまで我々が主体的に取捨・判断できる材料を求める。そんな空気が、私たちの社会には不足しているようにみえてならない。

 新型コロナワクチン接種をめぐって、推進一辺倒の政府・メディアはこれまで一貫して、安全性や後遺症への懸念に関する専門家の知見を含む、ネガティブ情報を国民に伝えることに背を向けてきた。それは、薬害の教訓を熟知しているはずの、法律家や政治家も同様に見えた。

 しかし、週刊誌メディアでは、ワクチンへの疑惑をようやく取り上げ、潮目が変わってきたともいわれている。また、日本共産党機関紙「赤旗」は、2月21日号で、ワクチン副反応死疑いのケースを初めて大きく取り上げ、注目された。この紙面で、同党の田村智子参院議員は、新型コロナワクチンを「感染予防の重要な手段の一つ」としながらも、「接種後の有害事象の実態を知らせ、原因の徹底究明を行うとともに、因果関係が明確に否定される事例以外は速やかに補償・救済されるべき」とする党の立場を明らかにしている。

 もっとも薬害への懸念という視点に立つのであれば、接種後の長期にわたる影響を視野に入れる必要や、今、注目され出している超過死亡との関係まで含め、この問題は検証されなければならない。

 しかし、根本的な問題は、やはり私たち自身が、まず、手間というコストを厭わず、情報を取捨する主体であることにどこまでこだわれるか、そしてそのこだわりによって、政府やマスコミによって、巧みに取捨される前の情報を出させるのか、なのである。



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