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 「政権に関与してこそ護憲派」。こうした見出しで7月31日の「朝日新聞」朝刊オピニオン面に、菅原塚・東京大学准教授の論稿が掲載された。集団的自衛権の問題と絡めて、同准教授が展開している論の結論は、まさしくこのタイトル通りであるが、そのなかで彼は、憲法と民主主義に絡んだ最高裁という存在の「現実」について言及している。

 

 これまでの一票の格差訴訟などで、最高裁がみせてきた与党・自民党を利するように見える判断――。

 

 「最高裁がこのような判断をするのは、制度を見れば不思議ではない。最高裁の裁判官は内閣が決定するものであり、言うまでもなく、長年この立場にあったのが自民党である」

 

 つまり、ここで彼がいうのは、最高裁そのものが政権によって仕組まれている追認機関である、ということである。これを、今回の解釈変更に当てはめると、現在15人の最高裁裁判官のうち9人が民主党政権時代の任命で、仮に全員が集団的自衛権行使容認に反対ならば、解釈確定に8人の裁判官の交代が必要だが、自民党は現実的にはあと1回の参院選に勝利すれば、今回の決定のお墨付きを確実にすることが可能になる、と。

 

 もちろん、最高裁の判断が、実質的に政権にコントロールされているなどということを、「憲法の番人」を自認する最高裁が認めることは永久にないだろう。しかし、この見方にある種のリアリティを見出した人もいると思う。ただ、ここから先の彼の論は、評価の分かれるところだろう。

 

 「このように述べると、これを政権党の横暴ととらえる人も多いだろう。しかし、これらはまさに憲法に規定された民主的手続きの帰結である」

 

 選挙で勝利した政権が、時代の変化や好みに応じて条文の解釈変更を行い、複数回の選挙で追認する最高裁を作れる。これらは、憲法が学説や権威によってではなく、民主主義により守られ、作られていることを意味しているのだ――。その先にくるのが結論ということになる。集団的自衛家行使容認の閣議決定を覆したいならば、これをやるために選挙で勝って政権に入り、最高裁に同調者を送り込め。それができないならば、その勢力に根本的に支持がないか、戦略が誤っているだけだ、と。

 

 しかし、この結論はどうだろうか。彼自信が、このシステムを追認することで、政権党にとって非常に有り難い論を展開していることになる。憲法に対して、司法までがその本来の役割を全うできないシステムを、あたかも民主的手続きとして組み込むように追認する見方に、われわれは立つべきなのだろうか。

 

 「野党が政権をとなければ話にならない」。かつて長い自民党一党独裁時代に、こういう言葉を、実は弁護士会関係者から聞いたことがある。法案や政策をめぐり、政権と対決するような弁護士会の主張。反対姿勢を貫きながらも、「玉砕」などと揶揄された現実のなかで、根本的な勝利は、野党政権の向こうにしかない、と漏らす人がいたのだった。現に彼らのなかには、1993年に自民党が結党以来38年間守った政権の座から転がり落ちて細川政権が誕生したときに、小躍りして喜び、新政権に期待した人たちもいた。「ついに私たちの主張が通る時代が来た」と。

 

 しかし、結論からいえば、そう簡単ではなかった。政権が1年にも満たない短命に終わったこともあるが、そもそも政権に政治家がしがみつくのには、必ずしも民意の反映を必要としないし、それこそ選挙結果とも一直線につながらない。もちろん、当落もワンイシュで決まるものではない。公約といえども、すべてに賛成というわけでもなく、優先順位のなかで本当は不本意な政策も飲んだ、ベターな選択が行われ、それを当選後、政治家があたかも包括的に了承されたかのようにふるまうのか現実である。

 

 ゆえに結果として、私こそが選ばれた、私たちが民意という、現実の民意と離反した国民の代表たちの横暴をみることになる。菅原准教授の論は、それをまさに民主的手続きとして、追認しているといえる。「悔しかったら政権をとれ」といっているかのような彼の切り口は、現実的には、横暴に対する諦めか妥協を引き出し、さらには最高裁の独立に対しても、期待しないことを奨励することになるようにみえる。

 

 政治的な妥協論は、結局、政治的に民意が絡め取られていくというリスクを抜きには語れない。権力の「甘さ」や万能性をいうことよりも、本当に民主的なるものを口にするのであれば、まずはどこまで筋を通せるのか、そのことに私たちが自覚的である必要があると思う。



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