司法ウオッチ<開かれた司法と市民のための言論サイト>

悪夢のような争点準備から数日が過ぎ、私の報告を読んだ兄は、今回の審理のあり方に疑問を持ち、裁判所に連絡を入れた。電話には我が家を担当している書記官が対応した。

 兄は、その担当書記官に、こうストレートに疑問を投げかけた。

 「弟から、争点整理の審理中にこちらの弁護士だけ残し、弟たち原告全員が理由も告げられず法廷から追い出されたと聞いたのですが、本当ですか?あり得ないと思うんですが」

 「追い出したというより、弁護士さんと裁判官が話をするために出てもらったということですね」と担当書記官。

 兄は、状況を確認するように、原告を追い出し、裁判官は弁護士だけ残して話をしたということは、客観的に見て事実がどうか、改めて問い質したが、書記官の回答は、「そうですが、よくあることですよ」というものだった。

 そこで、兄は質問を変えた。

 「憲法第82条の裁判公開の原則には、確かに例外規定があり、裁判官の裁量で公開を停止することは可能ですが、公開停止を規定する裁判所法第79条第2項のどれに該当していたか説明していただけますか。 理由も告げずに原告に退席を求めるというのは公平公正な裁判を行うために設けられた裁判公開の原則に反すると思うのですが」

 書記官は、「裁判を迅速に進めるために、弁護士と裁判官が個別に話をするのはよくあることなんです」と、裁判の迅速ということを挙げて、改めてこれが通常対応であることを強調してきた。

 兄は、うちが雇った弁護士は、われわれの意思を伝えるための代理人であって、われわれ原告を外して単独で裁判官と交渉することを認めていない。原告追い出して弁護士に圧力かけるなんて、当事者不在の司法談合じゃないか。こっちは権力相手に個人で裁判してる中で、随分と不条理な目にあってきている。司法まで法を無視した理不尽なことをするなら看過するわけにはいかない、と強く迫った。

 「では、どうせよと?」

 逆に質問で返してきた書記官に、兄は冷静を装いながら、きっぱりとこう言った。

 「裁判所法違反を犯した裁判官は信用できないので、裁判官を変えていただきたい」

 流石に、この要求に対しては、担当書記官も、ここでは応えられないという返事だった。兄は、書記官と話すより、裁判官本人と直接話がしたいと言ったが、それは不在を理由に断られた。兄は、こちらはただ、憲法に則った公平公正な裁判を受けたいと言っているだけであること、そもそも、今回の裁判は町・行政が、まともな対応していれば裁判にすらなっていないはずの案件であり、介護ヘルパーの窃盗に対して雇用者責任を問うもの。町長は謝罪すべきところなのに、「盗まれた側に責任はないのか」と逆に言った。今度は、司法もか。裁量権乱用して当事者原告抜きで、密室の談合か、と、ぶちまけた。

 「お気持ちはわかりました。裁判官に原告を退席させた理由を教えて欲しいということで、伝えすればよろしいですか」

 そう言ってきた書記官に、兄は最後にこう言った。

 「今更、理由説明なんか要りませんよ。正当な理由なく原告を退席させた後、うちの弁護士が顔色を変えて相手側の言い分で和解するよう原告を説得してきた、という事実から密室で裁判官がなんらかの圧力をかけたと推認されます。審理中に正当な理由なく、原告を退席させた行為は不当と考えられるので、上には裁判所法に照らした適切な措置をとっていただくようにお伝えください。次回は私も日本に行きます」

  いまにしてみれば、あの時、兄が書記官にぶちまけた言葉こそ、理不尽な事件に巻き込まれ、さらに理不尽な司法の対応に巻き込まれたように感じた、われわれ当事者の偽らざる気持ちだったと思える。



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