司法ウオッチ<開かれた司法と市民のための言論サイト>

 横浜弁護士会は、震災後、3月24日には「東日本大震災災害対策チーム」を立ち上げ、弁護士が県内の避難所に出向いて被災者の法律相談にあたったり、電話相談「被災者ホットダイヤル」を開設したりといった対策を矢継ぎ早に打ち出した。
 
 その後も、被災地への弁護士派遣や会員からの義援金のとりまとめなど、なかなか大マスコミには報道されないものの、積極的に、弁護士としての公的な責務を果たそうと努めている。6月8日には、こうした支援の経験を踏まえ、「東関東大震災に関する第一次提言」をとりまとめ、立法、行政に対策を促した。

 一見すると、弁護士は、医師などに比べると、災害に見舞われた人たちのために、直ちに役に立てる機会というのは少ないように思える。私も、震災以前は漠然とそんな考えでいたが、現実には、被災者の多くは、待ったなしの法律問題に直面していて、想像していた以上に、弁護士へのニーズは高かった。

 二重ローンの問題をはじめ、どうしても、気の毒な回答しかできない場合も多い。しかし、困っている人の話を、その人に寄り添って聞き、それを社会に発信して、現状を変えていくというダイナミズムは、弁護士のDNAを刺激する。

 横浜だけでなく、各地の弁護士会が、被災地支援に動いているのも、多くの弁護士が、この震災で、改めて、社会の中での自分たちの立ち位置に向き合い、地に足のついたところから、自分たちのできることをしようと努めていることの証だろう。こういう姿を見ると、やはり、弁護士は侍だなあと思うし、単純に、同業として誇らしい。

 しかし、このところ、気になる噂も耳にする。被災地の弁護士会が、他会からの弁護士の派遣に、あまり積極的ではないというのだ。

 又聞きに過ぎないので、事実かどうか、検証はできないが、背景には、テレビでCMを流しているような、大量の弁護士を抱える大手法律事務所が、軒並み弁護士を被災地に送り込んでいて、地元弁護士会が「島を荒らされる」と警戒感を強めている、という事情があるらしい。本当だとすれば、何とも複雑な思いにならざるを得ない。

 いつの時代でも、多分、今ほど弁護士が増えていなくても、ボランティアで避難所や被災地に向かう弁護士は大勢いたと思う。それは弁護士の本能だからだ。

 しかし、10年前だったら、ほとんどの被災地に、「地元の弁護士」といえる人は存在しなかった。また、10年前の横浜弁護士会に、今ほど、会をあげて、組織的に、大災害に取り組む地力があったかどうか。ボランティアで被災地に泊まり込んでいるのは、かなり多くが若手の、司法改革で生まれた世代の弁護士たちだ。弁護士の増員が、被災地の支援、復興に多くのオプションをもたらしたことは明らかだろう。

 他方で、現状は、弁護士の目からも、支援と復興が、ビジネスの一つとして認識されるようになったことを示している。弁護士も、パイの奪い合いに否応なく参加せざるを得ないのが現実だ。これもまた、弁護士増員の一つの結論だろう。

 果たしてこれは、司法改革の成果というべきものなのだろうか。



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