司法ウオッチ<開かれた司法と市民のための言論サイト>

   〈最高裁「変貌」の裏事情〉    著名なホテルやデパートのレストランなどで、メニュー表示とは異なる料理を出していたことが次々に明るみに出て、その状況はまるで底なし沼のようだという。エビの種類や漁獲地の偽装を初め、一般の肉に油を注入した加工肉を高級ビーフステーキ用として使っていたともいう。食通の人も、その偽装を見抜けなかったようである。

   ネットでも紹介されていたのでご存知の方も多いと思うが、瀬木比呂志という元裁判官が自著(「民事訴訟の本質と諸相」日本評論社)で、最高裁が何故に裁判員制度推進に梶を切ったのかという経緯について興味あるエピソードを紹介している。今では周知のことになったが、最高裁は司法制度改革審議会(第30回)において、司法への国民参加の議論の中で、裁判に参加する一般国民が評決権を持つことは合憲性に疑義があるので評決権のない参加が望ましいというのは大方の裁判官の一致した意見だと述べていた。

   それが、その後裁判員制度推進派に変貌し、2011年11月には裁判員制度合憲判決を打ち出した。その背景には一体何があったのかは暫く謎になっていた。瀬木氏はその点について有力な見方として次のように紹介している。「それは、主として当時の国会方面からの制度導入に向けての圧力、弁護士会や財界からの同様の突き上げなどを認識し、裁判所がこれに抗しきれないと読んだことによるとされているが、その実質的な目的には、トップの刑事系裁判官達が、民事系に対して長らく劣勢にあった刑事系裁判官の基盤を再び強化し、同時に人事権を掌握しようと考えたという事実が存在するのは否定できない、という見方である。これは有力な見方というより、表立って口にはされない公然の秘密というほうがより正確かも知れない。」(前掲p184)と。

   もとよりその真偽は私の知るところではないが、私にとっては全く想像もつかなかった裏の事情であり、もしそれが本当のことであれば、裁判所は余りにも国民を愚弄する行為をしたことになる。そのことは、裁判所が国民、被告人の人権に重大な関わりのある制度の採否に重大な影響力を持っていながら、裁判員制度に対する態度の決定理由について、制度の本質によるものではなく、庁内の勢力争いという本質を外れた実につまらない動機で決せられていたことを意味するからである。先年、「政府は必ず嘘をつく」(堤未果、角川SSC新書)、「政府はこうして国民を騙す」(長谷川幸洋、講談社、現代ビジネスブック)など、このようなタイトルの本が相次いで発刊された。

     〈上告趣意書等から見えてきた真実〉    詐欺という犯罪行為が成立するか、意思表示の瑕疵として取消の対象となる民事の詐欺になるかというような、法的に明確に詐欺という要件には該当しないものであっても、人間社会は、欺罔、つまり騙し、真実の隠蔽からは逃れられないものなのであろうか。    先の臨時国会で特定秘密の保護に関する法律案が審議され、自公などの賛成多数で可決成立した。特定秘密を守ることが国家の安全に寄与し、国民を守ることになるというのが政府の言い分であるが、本質的に政府というものは嘘をつく、真実を明らかにしない、国民を騙す存在であり、そのほかにもこの世は偽り満載であるという数多くの実例を見せつけられては、この法律は、権力者が自らの虚偽を巧妙に隠蔽し、権力者に刃向う者は徹底的に叩きのめすことを目的とする、いわば「国家的悪事隠蔽推進法」ともいうべきものであろう。    我々の政府は嘘をつく、国民を騙す、社会は虚偽に満ちている。それは真実であるとしても、ここ裁判所だけは正義と真実のみが通用すると、法曹の端くれとして私は裁判所を信用して来た。何度か落胆させられたこともあったけれども、それは自分の力不足だと思い、自らを慰め、依頼者に力不足を詫びて来た。

   しかし、裁判員制度の問題に関わり、私なりに考えを深め、その関連の最高裁判決を検討する機会を持ち、最高裁のその裁判員制度に対する関わり方を見て来て、その裁判所のトップ最高裁に対し、極めて残念なことではあるが次第に強い不信感を持つようになった。私はこれまで2回に亘って最高裁2011年11月16日大法廷判決、いわゆる裁判員制度合憲判決を批判して来た。その批判意見はこの司法ウォッチに連載させていただき、そのいくつかは拙著「裁判員制度廃止論」(花伝社)に転載させていただいた。

   今年(2013年)に入って、福島地裁郡山支部で行われた裁判員裁判で裁判員となり、その裁判員としての職務の遂行によって急性ストレス障害(ASD)と診断された女性を原告とする国家賠償請求事件に、私は他1名の弁護士とともに原告訴訟代理人となる機会を得た。    それまで私は、前記大法廷判決を何度も読み返してはいたが、上告趣意書等添付の資料を見ることをしなかった。しかし、今回その事件への対応の関係で、前記最高裁大法廷判決(最高裁刑事判例集65巻8号登載)にかかる上告趣意書、同補充書、検察官の答弁書、第1・2審判決文に初めて目をとおした。これまで2本の同判決批判意見を書く上では最高裁の判決文のみを読めば事足りると考えていたのだが、今回初めて上告趣意書等に目をとおして、私は自分の甘さと怠慢を痛感し本当に恥ずかしくなった。

   もとより、これまで私が発表した意見に訂正を要するものはない。その、私がこれまで目をとおさなかった部分に目をとおしたことにより、最高裁の驚くべき虚偽性を知ったということである。以下はその内容である。



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