司法ウオッチ<開かれた司法と市民のための言論サイト>

 

 〈はじめに〉
 
 政府は、2014年10月24日第187臨時国会に、裁判員の参加する刑事裁判に関する法律、いわゆる裁判員法(以下単に「裁判員法」という。)の一部改正法案を提出した。同法案は、同年11月21日の衆議院の解散により審議未了廃案となったけれども、今年1月26日召集の通常国会には、先の法案と同内容のまま改正法案が再提出されるであろうことは間違いがない。

 
 先の臨時国会に政府が提出した裁判員法改正法案の骨子は、
 ① 審判に著しい長期間を要する事件等を裁判員の参加する合議体で取り扱うべき事件から除外することを可能とする
 ② 非常災害時に一部裁判員候補者に対し呼出しをしない措置をとることができるようにする
 ③ 特定の事件について被害者特定事項の告知の禁止等を可能にする
ことを内容とするものである。要するに、制度の骨格には関わらない、事案としてはめったに起きるものではなく、運用によっても対応が可能と思われる、いわば当たり障りのない事項のみを挿入しようとするものである。

 
 この改正法案は、法務省の「裁判員制度に関する検討会」第18回会議(2013年6月21日)において確認された「とりまとめ報告書」を受けて纏められたものであり、法案の提案理由には「裁判員法施行の状況に鑑み審判に著しい長期間を要する事件等を裁判員の参加する合議体で取り扱うべき事件から除外することを可能とする制度を導入するほか、裁判員等選任手続において犯罪被害者の氏名等の情報を保護するための規定を整備する等の必要がある」と記されている。そこには、裁判員法附則9条に基づく所要の措置の一環であるとは明記されていない。

 
 本稿では、その法案の内容の検討よりは、この裁判員法の見直しの機会に、その改正法案を審議する国会議員全員に裁判員制度に関して、国民の代表として、単に、この改正法案の検討をするだけで事足れりとして良いのか、国民の代表としての責めを果たすためにはいかなる態度で臨むべきかについての一つの参考意見、というより要望を述べようとするものである。

 

 

〈理解深める義務がある国会議員〉

 
 現行の裁判員法は、2004年3月2日国会に提出され、同年3月16日の衆議院本会議で趣旨説明が行われたのち、4月6日から同月20日までの間同院法務委員会で8回の審議が行われ、4月21日採決され、4月23日の同院本会議で全会一致で可決された。その後、同年4月28日参議院本会議で趣旨説明が行われ、5月13日から同月20日までの間のうち4日間の審議を経て採決が行われ、5月21日の同院本会議で賛成180、反対2で可決されて成立し、5月28日公布された。

 
 裁判員制度の制定は、戦後最大の刑事司法改革であることは間違いがない。しかもその内容は、一般国民に対し刑事裁判への参加を罰則をもって強制することを内容とする、国民の人権に極めて重大な影響を及ぼす内容のものでありながら、法案として国会に提出されてから成立するまで僅か2か月と20日弱(実質審議が行われたのは両院合わせて僅か12日である)という短期間であった。

 
 国会における重要法案の審議は、原則として両院とも本会議での趣旨説明のあと、関連委員会の審査に委ねられ、その委員会で採決が行われた後、本会議で委員長が委員会報告をして採決が行われる仕組みがとられているようである(大山礼子「日本の国会」岩波新書p68以下)。

 
 国会が取り扱う法案は多岐・多数に上り、全ての国会議員がその法案の全てについて正しく判断し得るまでに理解を深め、問題点について結論を出すのは現実的には至難の技であろう。また、議員はその多くが政党・会派に所属しており、その政党・会派においては各法律案について検討し、問題点を把握し結論を出す場合が多いであろうから、そのような党内、会派内において、法律案について理解を深めることは可能かも知れないが、それでも議員の専門か否かによって理解の程度が異なることはあり得るし、それもまたやむを得ないことではあろう。

 
 しかし、そのように国会議員に同情的に言えるのは、ごく限られた場合であり、一般的には全ての法律案は国民の生活に直結するものが多く、現実にどこまで理解し得るかは別として、国会議員の職責としては全法律案について最大限理解を深めるべき義務がある。

 
 国権の最高機関の一員となる者は、職責上そのような能力と意欲を持った者であるべきであり、「私にはそれは無理です」では通用しない。また、党内会派内で議論が深められることがあったとしても、それは国民にとっては全く密室の中の議論であり、各国会議員がその法律案についていかなる問題意識を持ち、いかなる議論をしたのかは国民には分からず、国民がその問題点の真の姿を把握する機会はない。

 
【お断り】著者の希望により、連載中の「福島国賠訴訟の地裁判決を批判する」を一時中止し、本シリーズを掲載致します。同シリーズ修了後、前記連載(第3回)に戻ります。(編集部)



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