司法ウオッチ<開かれた司法と市民のための言論サイト>

 

 司法書士が司法書士自身の人権を尊重しているか、人権とはそもそも何であるか、その人権を護るための立憲主義、憲法とは何であるか。日本司法書士連合会役員すら、少なくとも私の知る司法書士たちは知らないし、それを一般会員たちに広めようという気概すら感じられない。択一憲法3問、刑法総論、各論計5問、総論は執行猶予専門、民法は各論ゼロ、担保物権法と登記書式専門というような現行試験で一人前の法律家などを司法書士に求めても、基本的に無理な話なのかも知れない。

 

 しかし、私が今心配しているのは、この日本国が、確かに生まれたら日本人になるという強制会である日本国が、強制会である司法書士会と同じような見かけの自治団体になってしまわないかということなのだ。群馬義援金訴訟は優れて人権問題をテーマとする訴訟であって、今日ではいかなる憲法、民法の教科書にも掲載されているようになった。しかし当の司法書士はそこから何も学んでいないし、学びたくもないようだ。では

 

 

 群馬義援金訴訟 上告理由書 第2回

 

 四、現代社会における憲法第十九条の意義
 この憲法第十九条が保障する国民の権利の価値の重要さは今日においてもいささかも変わらない。十九条の保障する思想・良心の自由権ばかりではなく、第十四条の平等権と差別禁止や二十一条の表現の自由等々、人間の生存と尊厳にとって必須の諸価値に対する侵害は、産業や暮らしの形が時代とともに変われば、それにともなって新しい意匠をこらして登場して来る。その様な形で、侵害は不断に再生産されて来るしその侵害との戦いは社会が多くの利害の衝突の上に成り立っている以上なくなるということはない。

 

 HIV訴訟、ゴミ焼却場のダイオキシン汚染問題、在日朝鮮学校生徒への市民からの攻撃等々、人権侵害事件の例をあげれば暇がない。この様な侵害は、双葉の内に摘み取られねばならないが、その努力を支えるのが国民の自由な、外部の何ものによっても支配されない思想と良心であり、その国民の自由な思想と良心によって支えられる民主制であることは明らかである。国民生活の平和と安全、富と豊かさを創り出すものは何よりも国民自身であって、「この憲法が保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によって、これを保持しなければなら」(憲法十二条)ず、又、それを実現し確保するための手段として、民主制と代議制が憲法に国民の自己統治機構として規定されているのである。

 

 その民主制を支えるのが国民の選挙権であり政治参加であるが、それを究極で支えているのが国民の自由な思想と良心に他ならない。この「思想と良心の自由」が侵害されれば、国民の自律性と個人としての独立が損なわれ、自由な国民の意思に基づく健全な民主制の実現が瑕疵を帯びることになり機能しがたくなる。最近では、世界の自由市場化と交通通信技術の極度の発達によるグローバル化、公益条件の平等要求からくる規制緩和の波のなかで、国民の選択権の自由拡大と自己責任原則が政府筋からも強く主張される様になった。

 

 社会経済が巨大化複雑化すればするほど政府の後見的役割は後退せざる得なくなり、多くの部分で国民の自治が求められる様になった。これがために、国民の自己責任原則が高唱されるようになるのであるが、この国民の自己責任原則とは、個人の尊厳から派生する一原理であり、その個人の尊厳を支えるのが「思想良心の自由」に他ならない。従って、憲法第十九条の保障する「思想良心の自由」は、自由で競争的な世界を生きて行くための国民の自立自尊達成の前提として、今日の新たな時代的要請のもとで、極めて重要なものとなっている。

 

 産業の近代化が百年足らず、立憲民主制の経験が五十年足らず、名誉革命から三百年のイギリス、独立から二百年の民主制国家アメリカに、遙に遅れたこの日本において、個人の尊厳と真の民主制と自由の価値が、改めて見直されねばならない。この民主制の遅れが、個人を団体に埋没させ、団体に依存する他律的な国民を作って来た。この弊害は、会社人間、過労死事件、教育の混乱、過疎に悩む地方市町村の崩壊、国民の利益を省みない業者団体の剥き出しのエゴイズムと業者うって一丸となった改革と自由化への抵抗、それにともなう社会の停滞、ついには少子高齢化に見られるように家庭における人口の再生産能力の衰弱をさえもたらしている。

 

 本件の当事者たる司法書士も司法書士会もこの時代の運命から自由ではなかった。こうした現代の状況のもとでは、活発な法律の改廃によって我が国の民主政治が的確迅速に対応して行かねばならないことはもちろんであるが、その様な変革期にある時代であるからこそ、「司法」が、法律によっても、すなわち多数決によっても奪われることのない人間の普遍的な基本的権利の最後の護り手として、民主制の基礎と土台にある価値を決して崩さないようにしなければならないのである。「思想良心の自由」は絶対であって、これを厳格に護ることは国民の義務である。その厳格な遵守によってこそ自由と民主制を腐敗と堕落、抑圧から防衛する事が出来る。
以下 次回



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