司法ウオッチ<開かれた司法と市民のための言論サイト>

 

 〈民主主義は官僚階級が自らの専制を粉飾する装置〉

 

 この小見出しは、佐藤優「官僚階級論」p230(にんげん出版)の表現そのものである。国民の司法参加という、多くの人々が司法の民主化と捉え得る言葉は、官僚にとっては官僚専制支配の粉飾に極めて都合の良い言葉だということである。裁判員制度によって裁判所は、第一審刑事重罪事件について、国民、実は得体の知れない、国民の代表などとは到底言えない一般素人を裁判官席に立たせ、裁判を民主的なものと国民に印象付けることに成功しているように見える。

 

 しかしその実態は、公判前整理手続きというお膳立ての作成、訴訟指揮、裁判員解任権、評議の秘密、評決については裁判員は裁判官の判断を無視し得ないこと、そして控訴審は官僚裁判官のみによって裁判員裁判を覆すことができること、このような制度設計、そして官僚裁判官と裁判員との情報格差、実力の違い等を見れば、裁判員制度は国民参加という一見民主的らしいものによって装われた強固な官僚裁判制度としてでき上がっていることは疑いの余地のないことなのである。

 

 さらに裁判所にとって都合の良いことは、刑事裁判について官僚裁判官の判断権が制限される陪審制、当初日弁連が国民の司法参加と言えばこれしかないと言っていた制度の採用は完全に消滅し、官僚裁判官による司法の専制支配が全うされることになることである。完全な裁判所法3条3項の死文化である。

 

 ここまで論じてくれば、最高裁大法廷判決が、上告趣意を捏造し、肝心の上告趣意についての判断を遺脱し、おまけに政治家よろしく裁判員制度の効用を得々と説き、その将来の発展を熱望する文言を並べ立てた意図が良く理解できるであろう。

 

 最高裁には、破綻に瀕したこの裁判員制度に、このような官僚裁判官制度維持への思いがあることは否定できないと考える。

 

 

 〈日弁連が裁判員制度推進に一役買っているわけ〉

 

 日弁連は2000年9月12日「国民の司法参加」に関する意見を司法制度改革審議会に提出し、その中で「国民が自立した統治主体として参画して行く社会にふさわしい司法参加の在り方は何か、それは陪審制度の導入しかないと考えます」と断言していた。裁判員制度は陪審制度でないことは明らかである。また、裁判員の参加は強制であり、その制度の下では到底自律した統治主体として裁判に関与することのできない仕組みになっていることも明らかである。

 

 しかし、日弁連は、最高裁判所の変節に符節を合わせるかのように裁判員制度賛成に変身し、以後は裁判員裁判における弁護技術のスキルアップの研修等制度維持に力を入れ、制度批判の発言を全くしなくなった。1954年にまとめた法曹一元要綱以来繰り返し強く主張してきた法曹一元の実現の要求も、弁護士任官制度への変質でお茶を濁している。2010年12月3日、日弁連刑事法制委員会は「裁判員制度見直しの要綱試案のために」なる意見書をまとめ、その中で「市民感覚の『暴走』の歯止めのためにも被告人による選択権が必要といえよう」と記述していた。しかし、この意見は日弁連の最終改革提案には取り入れられなかった。

 

 何故に日弁連は変節したのか。推察するに、司法への国民参加を掲げてきた日弁連としては、陪審制も裁判員制も司法への国民参加であることには変わりがない、陪審制の実現が困難であれば次善の策として裁判員制度を受け入れ、これを継続した方が良いという判断に立ち至ったのではなかろうかと思われる。或いは、裁判員制度を陪審制の一里塚とでも考えていたのであろうか。

 

 もとより、裁判員制と陪審制とは国民の裁判への関わり方について根本的違いがあることについては多言を要せず(西野喜一「裁判員制度の正体」p46以下参照)、陪審制推進論者が裁判員制度を受け入れることは変節以外の何ものでもないけれども、かかる変節が、最高裁ほどの情熱はないにしても、破綻した裁判員制度を続けさせていることに貢献していることは間違いがない。

 

 日弁連は、裁判員として死刑事件に関与し急性ストレス障害(ASD)を患った郡山市の女性の事件について、如何なる発言をしただろうか。一般論として裁判員のメンタルヘルスケアの必要性は説いても、これを憲法18条、13条違反等の制度の本質的問題として論じたことはなかったと思われる。

 

 このような日弁連の体制迎合的態度が、この破綻に瀕した制度をズルズルと存続させ、被告人の権利を害し、国民の基本的人権の侵害を招いていると考える。要するに日弁連は国民の本当の痛みを理解しようとしはしないのである。



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