司法ウオッチ<開かれた司法と市民のための言論サイト>



 〈早期発見、早期治療が最良の方法〉

 国家によってマインドコントロールされた国民は、戦争に加速度的に突き進んでしまいます。雪だるまのように、回転するだけで大きくなります。「イケイケドンドン」となっていくのです。ゲルマン民族至上主義と反ユダヤ主義を掲げ、第二次世界大戦を引き起こしたナチス・ドイツ、全体主義的国粋主義で独裁体制に入り、第二次世界大戦で敗北したファシスト・イタリアは、その典型です。戦後の日本もその一つです。

 第二次世界大戦を引き起こすに至った経過は、現在ではその記録によって明白となっています。アドルフ・ヒトラー(1889-1945)やベニート・ムッソリーニ(1883-1945)という人物にマインドコントロールされたドイツ国民やイタリア国民が、指導者の言うがままに無批判に、あるいは批判できずに第二次世界大戦に突っ走っていったのです。

 戦前の日本も同じでした。天皇を担ぎ出し、「神国日本」のイメージを国民に植え付け、国民をマインドコントロールし、日本を全体主義、国粋主義、軍国主義にし、太平洋戦争に突っ走らせたのは国家によるマインドコントロールだったのです。

 「積極的平和主義」などという美名で、武力行使、戦争に走ろうとする安倍政権にマインドコントロールされては、子や孫の代に取り返しのつかない禍根を残してしまいます。それだけはさせたくないとの思いで、厚顔無恥を覚悟して、これを書いているのです。

 「国民が、国家や政権や指導者にマインドコントロールされないためにはどうしたらよいか」については、これという決定的妙案があるわけではありません。「この機会に考えてみよう」という段階に過ぎません。皆さんも一緒に考えてみて下さい。そして、良い案があったら教えて下さい。機会を得て、広めたいと考えています。

 「早期発見、早期治療」、今のところはこれが癌対策の決め手と言われています。私は平成23(2011)年12月、直腸に癌が発見され、摘出手術を受けました。幸い「ステージⅠ」という段階でした。早期発見、早期治療だったため、その後、癌の転移や再発は今のところありません。これは、早期発見、早期治療のお陰であったことは間違いありません。同じような癌でも、発見が遅れ、転移や再発で亡くなった方は身の回りに大勢います。

 私は、妻から腎臓の提供を受け、生体腎移植手術を受けました。担当医の先生からは、「免疫抑制剤を使っているから、癌になりやすい。その対策は、早期発見、早期治療しかない」と言われました。

 早期発見、早期治療は、癌に限らず多くの病気に当てはまることだと思います。マインドコントロールされるということは、心の病気と言えなくもなさそうです。病気だと考えれば、マインドコントロールされないための最良の方法は、早期発見、早期治療だと考えるに至りました。

 安倍政権の一連の動向には、国民をマインドコントロールして「日本を戦争ができる国にしたい」という不退転の決意が感じられます。一日でも早く、この芽を摘み取らなければならないのです。それができるのは、国民主権の下では国民です。しかし、この芽がどんどん育って成長したら、もう摘み取れなくなってしまいます。

 安倍政権は、特定秘密保護法を強引に成立させ、国家安保戦略を立ち上げ、教育基本法に「我が国と郷土を愛する」という表現で「愛国心」を盛り込み、「愛国心」を国民に植え付けるための教育と社会啓発活動をしようとしています。集団的自衛権行使容認の閣議決定も行われてしまいました。既に、癌は進行している状況です。

 これ以上放置したら、取り返しがつかない段階まで病状は悪化しかねません。そうなったら、マインドコントロールから抜け出せなくなってしまいます。国民は、いつの間にかマインドコントロールされる側に立つだけでなく、マインドコントロールする側に組み込まれてしまいます。良識など通用しない世の中になります。反対意見を述べたら、「非国民」とか、「国賊」にされてしまうのです。国から、国民から弾圧され、正論は封じ込まれてしまうのです。拙著「新・憲法の心」にも、厳しい批判が一部の国民から寄せられるようになってきています。


 〈「戦争をしない」という心〉

 マインドコントロールを病気に例えるとするならば、早期発見、早期治療と並んで大事なことは、国民一人一人が抵抗力の強い体力を養うことが不可欠です。マインドコントロールされない体質になることです。

 そのためには、国や政権の宣伝に無批判になびかない考え方、他人の意見に左右されない自分自身の考え方を、普段から養っておくことだと思います。このような思いで、「旧・憲法の心」では次のように述べました。


 「結論を先に言えば、自分の心、即ち『自分の考えを持つ』ということだ。人間は、あくまでも自分中心的に生きるしかない動物である。これは、人間に限ったことではない。生きとし生けるもの全てが同じだ。それが自然であり、そのことをまず認めることが肝要だ。釈迦が修行を積んだのも、目的は自らの苦悩を解消しようとしたものだ。そのことは、釈迦自体認めている。『この世で自分が一番大事だ。それは誰だって同じだ。だから他人も大事にしなければならない』というのが釈迦の考えでもある。まず、自分が幸せになれるように祈り、自分の幸せ同様に人の幸せを祈る、というのが人間本来のあるべき姿だ」

 お釈迦様は、ルンビニーでお母さんのマヤ夫人から生まれるとすぐに、7歩歩いて、右手で天を指さし、左手を地に向けて四方を顧みて、「天上天下唯我独尊」と言ったとのことです。その解釈はいろいろあると思いますが、私は、「自分が何よりも大事だ」という至極当たり前のことを言っているものと受け取っています。キリストよりもマホメットよりも、自分が大事なのです。もちろん、国よりも天皇よりも、自分が、自分の命が大事なのです。

 そのように思うのは、お釈迦様に限らず、誰だって同じなのです。それは「永久不変、世界普遍の真理」なのです。自然なのです。誰もが持っている「自分が、自分の命が一番大事だ」というこの真理を、ごく当たり前の思いを互いに認め合うことが「基本的人権の尊重」だと思います。難しい理屈ではなく、「誰もがそう思う」という真理を、究極の価値と認めなけければならないのです。それをとことん尊重することが、「憲法の心」なのです。

 そのような真理から考えれば、「愛国心のために、自分を犠牲にするという考え方は間違っている」ということはすぐ分かります。自分を大切にし、その思いを他人に対しても及ぼすことが大事だと信じて疑いません。社会や国のために、自分や自分の命を犠牲にすることは真理に反します。摂理、自然の法則に反します。人間として、あってはならないことだと確信しています。自分や自分の命を犠牲にするという考え方は、他人や他人の命も大事にしないという考え方にも通じてしまいそうです。その結果、戦争に至るのです。

 「ぼくは戦争が大きらい」の作者・やなせたかし氏は、「アンパンマンのマーチ」の最初のところで、次のような歌詞を書いています。

 そうだ うれしいんだ 生きる よろこび

 たとえ 胸の傷がいたんでも

 なんのために 生まれて

 なにをして 生きるのか

 こたえられない なんて

 そんなのは いやだ

 今を生きる ことで

 熱い こころ 燃える

 だから 君は いくんだ

 ほほえんで

  やなせ氏は、特攻兵器・人間魚雷「回天」の乗員に志願し死んでいった実弟を思い、「君は、なんのために生まれてきたのか。君は、特攻隊員になるために生まれてきたのか。そんなはずはない。そんなことをさせた戦争は大きらいだ」との思いを込めて、この詞を書いたのだと思います。

 戦争は人間の、つまり、日本人に限らず全人類の「生まれた以上、幸福に一生を送りたい」という基本的人権を根こそぎ奪うものです。許されるはずはありません。生まれてきた以上、誰だって、人生を楽しみたいと思うのは当たり前です。「国のためなら、一部の国民が犠牲になるのはやむを得ない」などという考え方は許されないのです。犠牲になる人にとっても、自分の命が全てです。人生を楽しみたいのです。その生きる喜びや楽しみを、根本的に奪うのが戦争です。私の心は、「二度と戦争をしてはならない」という思いで一杯です。

 やなせ氏も、「ぼくは戦争が大きらい」で私と同じような気持ちを述べています。少なくとも、、私と同年代以上の日本人であれば、誰もが同じような心ではなかろうかと思います。終戦後から今日まで、日本には戦争がなく、私たち日本人は幸福に人生を送ってきました。この幸福を、若い人たち、子や孫に残してあげなければなりません。

 日本を「二度と戦争をしない国」とし続けるためには、日本国民一人一人の心が何よりも大事です。日本人の誰もが、「二度と戦争をしてはならない」という心を持っています。その心を、国や政権や指導者にマインドコントロールされないことが何よりも大事だと信じて疑いません。=この項終わり

 (拙著「新・憲法の心 第11巻 戦争の放棄(その11)」から一部抜粋)

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