司法ウオッチ<開かれた司法と市民のための言論サイト>



 
 (1)  たとえ過払金を回収するためとは言え、事前に正確な残高を確定しないまま、債務者にリスクを負担させる債務整理や過払金請求の方法は、誤っている

 私は、弁護士司法書士に債務整理を委任したとたんに信用情報機関に登録されて、以後のカード取引決済が停止されてしまうというのでは、債務者は資格者への過払い金返還請求への依頼や債務整理委任を実行するのにためらわざるを得なくなるだろうと考えた。

 今でも専門家や資格者の間で通常行われている債務整理受任の方法は、結果的に債務者に業者の信用情報登録、業者間信用情報公開のリスクを負担させることになり、債務者の債権者からの事前の自己の債務についての情報受領権(改正貸金業法19条の2)の存在を無視して、過払い金返還請求の可能性確認につき、債務者に冒険的実行を強いることとなり、これは好ましいことではありません。

 例えば、平成26年10月29日発行の「過払金返還請求の手引き」(民事法研究会)という債務整理のガイドブックがあり、瀧弁護士が代表をしている「名古屋消費者信用問題研究会」が編集した現在も市販中のその入門書は、判例DVDも付録としてついているものですから全国の弁護士や司法書士の借金整理の手引書となっています。

 しかし、その手引書の指示は根本のところで間違っていると考えます。というのはその指示に従った結果、債務者に避けることができたかもしれない損害(ブラック登録等)をこれまで与えて来た可能性があるのではないか、あるいは今でも与えている可能性があるのではないか、従って、そのような指示は間違っているのではないかということです。


(2) 日本司法書士連合会の債務整理処理指針が指示すること

 前記手引書、平成26年10月29日発行の「過払金返還請求の手引き」(民事法研究会)では、「弁護士・司法書士に相談する際には、過払い金の見込まれるような取引の長い貸金業者だけでなく、必ずすべての借金の内容について(債務者は)話すようにしてください。・・・全部の借金の整理も含めて依頼することを強くお勧めします」とあり、その半面で「破産、民事再生の申し立て、弁護士・司法書士による債務整理の開始、返済の延滞、保証債務の履行請求」があれば、信用情報、いわゆるブラックリストに載り(貸金業法41条35-1 施行規則30-13-2-2)カード会社からの借入もその他のローンも出来なくなるということも述べています。

 続けて、しかし、債務整理にはこのようなリスクがあるけれども「債務整理の開始情報が登録されたことで生じる不利益は、せいぜい『お金が借りられなくなる』ということくらいです。・・借り手の方々は、これまで消費者金融の返済に長年苦労されてきた人でしょう。借金ができなくなるということは、むしろ歓迎すべきことではないでしょうか。債務整理の開始情報が登録されることなど気にとめることなく、堂々と過払い金返還請求をすることが賢明な選択と言うべきでしょう」(「過払金返還請求の手引き」31ページ)と述べています。(ガイド31P)。

 また、日本司法書士連合会が、平成22年1月29日に全国の単位司法書士会会長あてに日本司法書士連合会 細田 長司会長が発した「債務整理事件の処理に関する指針」の補足説明の送付について(お願い)という文書に添付された指針とその解説には「不利益の説明」という条項があり、その条項 第9には「債務整理事件の依頼を受けるにあたっては、依頼者に対し、次に掲げるものの他、不利益が発生する可能性がある事項を説明するものとする。(1)信用情報機関に事故登録される可能性があること (2)破産の場合には資格制限があること (3)不動産の所有権を失う可能性があること (4)自動車等の所有権が留保されている物件の占有を失う可能性があること」と規定して、債務整理にともなうリスクを事前に説明せよとしています。

 第11では「債務整理事件を処理するにあたっては、合理的な理由がないにもかかわらず、依頼者の他の債務の有無を聴取しないで、又は依頼者に他の債務があることを知りながら、過払い金返還請求事件のみを処理するなどしてはならない」としている。全10条となるこの指針は、改正貸金業法19条の2において、債務者は何時でも、自己の取引に係る情報を債権者に請求することが出来ること、すなわち債務者国民の債務整理に先立ってできる債務者の情報受領請求権については、全く、条文においてもその解説においても触れていないのです。

 そうすると今日においても、全国の司法書士はこの10か条の指針と解説に基づいて、事前に債務を客観的に調査せず債務者のおぼろげな記憶を頼りに行き当たりばったりの債務整理を実行して、その結果、依頼人の債務が、事故案件(債務不履行案件)として信用情報機関に登録されている可能性やリスクが高いままに債務整理を実行しているということを意味することになります。

 改正貸金業法の完全施行日が2010年(平成22年)6月18日。それから8年経ち、改正貸金業法施行の結果、今日では、5社以上からの返済に苦しむ多重債務者はほとんどいなくなりました。

 その代わりに登場して来たのは、払わなくても良い弁済を未だに、200回、300回と業者の指示に従ってATM等で支払い続けている債務者達です。そのような被害者が、いまだに全国にも、東京にさえも多数いて、この人たち、被害者の多くが、新規貸し付けの陰に隠されていて、マスコミからも話題にさえされず、今でも払い続けているようなのです。平成のサラ金フィーバーの後始末はまだ終わってはいなかったのです。

 債務者の現状について見ると、今では一人の債務者につきA社法定利率内、B社過払金返還請求権時効消滅、C社法定利率内、D社42198円の過払金というようなケースが多いのです。もし、日司連の処理方針、あるいは先述の手引書の指示通りに、A社、B社、C社、D社についての債務整理を弁護士、司法書士に委任すれば、催告はすぐにストップされますが、同時に貸し付けも停止され、信用情報機関に登録され公開されて、その時からVISAもMASTERもインターネットもETCも使えなくなることになります。

 A社、B社、C社、D社はともかく、他の金融機関との金融取引も5年から7年の間取引が出来なくなるのです。キャッシュレス時代に、手引書が言うように「せいぜい『お金が借りられなくなる』ということくらい」で済む話では決してありません。



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