司法ウオッチ<開かれた司法と市民のための言論サイト>




 

 〈国民の生活を直撃する危険性〉

 極めて乱暴な言い方となりますが、国が借金を払えなくなって、直接泣くのは国債を持っている富裕層であり、国債などを持っていない我々庶民は、直接的には痛手はありません。

 だからと言って、貧困層には関係がないと言い切れません。国が借金を払えなくなったら、世の中全体が不景気となるでしょう。その不景気の影響を最も速く、最も深く受けるのは富裕層ではなく、貧困層でしょう。国は借金さえ払えないのですから、社会保障費の財源も枯渇することになるでしょう。

 貧困層の中でも、生活保護を受けているような経済的に最も苦しい人たちや、医療費を負担しなければならない病人や老人らが、まず不景気の波を被ることになりそうです。一般的な国民だって、不景気の影響は避けられません。戦後の三度の食事に事欠くような生活に戻ったら、国民の命と幸福という憲法の究極の価値を守ることができなくなりそうです。憲法の究極の価値である個人の尊厳を守るために、財政の健全化は不可欠です。

 健全な財政とは、借金のない財政です。税金収入だけで予算を賄える財政です。今の日本の財政状況は、健全とは言えません。年間60兆円の税金収入を全部借金の支払いに充てても、今の借金を払い切るには、20年くらいかかります。

 このような借金を返済するには、年間60兆円の税収で100兆円を超える予算の中では、借金の返済に充てる分は出てきません。このままでは国の借金は増える一方です。これから先、増税をして税収を増やすことと、無駄遣いをなくし、支払いを抑える方法をとるしかありません。

 国家機関は、国民の命と幸福という憲法の究極の価値を守るにはどうしたらよいかという秤で、国民の命と幸福に反するカネの使い方はもちろんですが、必要でない支払いはしないように最大の努力が必要です。

 国家機関だけでなく国民も、遊興と贅沢と便利を求める生活を見直さなければならないのです。パチンコ、キャバクラ、ホストクラブは絶対に必要でしょうか。カジノを設置するための支出は、憲法違反とはならないのでしょうか。

 「国が借金を払えなくなったら、どうなるのか」という問いに対する答えは、「国民の生活が苦しくなる」ということになります。戦中、戦後、庶民の生活は困窮し、三度の食事も事欠く状況でした。そこまでは酷くならないでしょうが、国民の生活が苦しくなることは間違いないと思います。

 憲法は、第25条で「すべての国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」と宣言していますから、国は、国民が健康で文化的な最低限度の生活を営めるような財政状態は保たなければならないのです。国会も内閣も、しっかりと財政を管理してほしいものです。


 〈あらゆる手段で監督すべき国民〉

 国が、国の借金を払えないような事態に陥り、どうしたらよいか分からないという時でも、憲法の究極の価値は、個人の尊厳にあり、国民一人一人の生命と幸福を確保さえすればよいと居直って対処いればよいということになります。

 その具体的なやり方は、政治の問題であり、法律解釈の範囲を超える問題かも分かりませんが、徳政令や破産法の理念は参考になります。「死ぬ以外はカスリ傷」という考え方もあります。個人の尊厳、つまり一人一人の命と幸福を守ること以外は、カスリ傷との思いで立ち向かえば、「身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ」ということになるのではないでしょうか。

 「日本国憲法において、国が借金を払えなくなったら、どうなるのか」という問いに対する答えは、「どうにもならない。払えないものは払えないだけ」という、極めて乱暴なものにもなりそうです。国債を持っている富裕層に泣いてもらうことになります。

 ですが、前記の通り、国が借金を払えなくなったら、国の経済は破綻状態になり、社会保障費の確保も十分には出来ません。国は国民に対し、「健康で文化的な最低限度の生活」の権利を保障することが出来なくなることも考えられます。泣くのは富裕層だけでなく、貧困層にとっては死活問題となりそうなのです。

 新型コロナウイルス問題で、その対策費に四苦八苦している現状には、危機感が湧いてきます。このような機会こそ、国の借金を増やさないように、減らすように国の機関も国民も真剣に考えるよいチャンスです。財政健全化を目指さなければなりません。

 ですが、令和2(2020)年9月29日の岩手日報には、「財政健全化遠く」という見出しの記事が掲載されていますが、消費税10%への引き上げから1年を迎えても、財政健全化は遠のくばかりのようです。このままでは、国が借金を払えなくなる時が来ないとも限りません。

 そうなったら、憲法25条の「すべての国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」という生存権は、名ばかりのものとなってしまいます。国の機関も国民も「国が借金を払えなくなる」などということにならないように財政の健全化に努めなければならないのです。

 憲法第7章「財政」の章の第85条には、「国費の支出及び国の債務負担」というタイトルで、「国費を支出し、又は国が債務を負担するには、国会の議決に基くことを必要とする」と定められています。

 ですから、国が借金をするためには、国会の議決が必要となります。国会の議決が的を射たものであれば、国の借金も憲法の究極の価値である個人の尊厳に適うものとなるはずです。

 国民としては、国会に送り出す国会議員の適性を見抜き、適任者を選挙で選ぶことと、国会でまともな議決をしないような時は、デモやツィッターデモなど、あらゆる手段を使って、国会が正常な議決をするよう監督しなければならないと確信します。

 こういうことを語ったりすることは、憲法の活きた勉強になるような気がするのですが、如何でしょうか。=この項終わり

 (拙著「新・憲法の心 第28巻 国民の権利及び義務〈その3〉」から一部抜粋)


 「福島原発事故と老人の死――損害賠償請求事件記録」(本体1000円+税)、都会の弁護士と田舎弁護士~破天荒弁護士といなべん」(本体2000円+税)、 「田舎弁護士の大衆法律学 新・憲法の心 第29巻 国民の権利及び義務(その4) 学問の自由」(本体500円+税)、「いなべんの哲学」第4巻(本体1000円+税)、「兄」シリーズ 1話~9話(各本体500円+税) 発売中!
  お問い合わせは 株式会社エムジェエム出版部(TEL0191-23-8960 FAX0191-23-8950)まで。

 ◇千田實弁護士の本
 ※ご注文は下記リンクのFAX購買申込書から。

 ・「田舎弁護士の大衆法律学」シリーズ

 ・「黄色い本」シリーズ
 ・「さくら色の本」シリーズ



スポンサーリンク


関連記事

New Topics

投稿数1,193 コメント数410
▼弁護士観察日記 更新中▼

法曹界ウォッチャーがつづる弁護士との付き合い方から、その生態、弁護士・会の裏話


ページ上部に