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 〈法定相続分をめぐる誤解〉

 民法には、相続に関する規定があります。その規定の中に、「配偶者の相続分は2分の1、子どもの相続分は、子どもが何人いても2分の1、子どもが何人かいたら、子どもの各相続分は均等」という内容の条文があります。これは法律が定めている相続分ですから、「法定相続分」と呼んでいます。

 この法定相続分の規定を、その部分だけ暗記し、本当の意味を誤解している人がいます。「法律に定めているから、その通りにしなくてはならない」と思い込んでいる人がいるのです。

 これは大きな誤解です。法定相続分通りに分割する必要はないのです。相続に関わる当事者が、法定相続分と違うようにしたければ、法定相続分など関係なく、それと異なる相続分が決められるのです。

 これが、ここで一番強調したいところです。法律より相続に関係する人の気持ちを優先することを、法律自体も認めているのです。相続問題では、法律より気持ちが優先するのです。

 「遺産は、長男が全部取得し、他の人は取得しない」と被相続人が遺言書を作成したり、相続人全員が遺産分割協議書で、そのように合意すれば、法定相続分の規定は適用されません。まず、そのことを知って下さい。

 ここは、相続問題に関する法の全体を理解するうえで、極めて大事なことです。法律以前にある相続の本質は、法律の規定に優先します。法律は、相続関係者の気持ちが分からない時の補充規定に過ぎません。相続に関わる人の気持ちは、法律の規定に優先します。法律自体が、そのような制度にしているのです。

 「相続は、法律の規定によらなければならない」と考えるのは誤解です。ここのところをよく理解して下さい。相続問題は、そもそも法律で決めるのではないのです。法律は、できるだけ干渉しないことになっているのです。相続に関係する皆が幸せになるように、相続に関係する皆の気持ちで決めればいいのであって、国や法律は、そう望んでいるのです。

 個人と個人との争いを裁く民事法の規定の多くは任意規定です。任意規定とは、「その規定を無視して、関係者間で思うままに決めてよいという規定」です。当事者が何も決めていないなら、その法律の規定に従って、裁判するというだけのものです。

 当事者が決めたら、それに従い、決めていなければ、その法律の規定に従うというものですから、被相続人はもちろん、相続人も法定相続分通りに相続分を決めなくていいのです。法廷相続の規定は無視していいのです。ここのところは、相続問題を解決するうえで、極めて大事なところです。ここをはっきり認識して下さい。


 〈相続に関する規定は裁判の時の手引き〉

 相続に関する法律の規定は、当事者が決めることを第一とし、当事者間で決められない時は、法律の規定をマニュアルとして裁くことになるのです。相続に関する法律の規定は、裁判する時の手引きに過ぎません。

 前記のように被相続人は遺言書を作って、長男一人だけに遺産の全部を取得させることもできますし、相続人も遺産分割協議書を作って、遺産の全部を長男一人が取得し、他の相続人は誰も何も取得しないと決めることもできます。

 法定相続分の民法の規定は、遺言書や遺産分割協議書がないため、どのように分けたらよいか分からない時に、裁判官は、民法の相続分の規定に従って裁きなさい、というだけのものなのです。

 ここのところを誤解し、法定相続分に従わなければならないと思い込んでいる人がおり、これが争いの原因となっていることが少なくありません。相続に関する民法の規定は、当事者が決められなかった場合の規定であり、当事者が決めれば、法律も裁判も関係なくなるのです。

 遺産を残す人や遺産をもらう人の気持ちの方が、法定相続分や遺留分を定めている法律の規定より優先するのです。長男は遺産を全部取得するかわりに何かあったら母や兄弟の援助をするなどということは、世間一般にあることです。それが世の中では普通です。

 それを誤解して、「法律の規定があるから、法律の規定通りに分けなければならない」と思い込んでいる人がいるのです。ここのところは、相続に関する法律を解説する最初に申し上げたい重要なポイントです。

 法律は一部分だけを知って全部を知らないと、このような誤解が生じることがあるのです。木を見て、森を見ていない、生兵法は大怪我のもとです。気を付けたいところです。
 (拙著「いなべんの哲学 第6巻 」から一部抜粋)


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