〈どの国も考え付かなかった戦争放棄〉
日本国憲法は、憲法改正の動機と憲法の前文の流れに添い、第1条に天皇に関する規定は置いたが、「天皇は国に関する機能は有しない」としたう上、第2章に戦争の放棄の規定を創設した。つまり国民主権と戦争放棄とを、最初に明らかにした。
日本国憲法第2章は、9条の一カ条だけで成り立っている。その1項には、「戦争を放棄する」と、2項では「戦力の不保持」を明記した。国が憲法上に戦争の放棄の規定を創設したのは、人類史上初めてのことである。
世界の憲法上、かつてない画期的なことである。78年が経った今でも戦争放棄の規定を持つ憲法は、他の国に出ていない。200近い国があるのに、憲法に戦争放棄を掲げている国は、日本一国だけである。地球上、唯一戦争放棄の憲法を持つ日本国民は、このことに関し、どのような考えを持っているのだろうか。政治家の先生方はどうなのか。私は、憲法9条は人類史上最高の哲学だと確信している。このことを世の中に知らせることが地方弁護士である自分の社会的責任だと確信している。
戦争を放棄するという考え方は、釈迦も、孔子も、ソクラテスも、キリストも思い付かなかった哲学と言える。少なくとも、日本国憲法が戦争放棄の規定を置くまで、戦争放棄を憲法に掲げた国があったということを聞いたことはない。21世紀の今も、戦争放棄の規定を置く憲法を持つ国は、日本のほか一国もない。
動物には、その生存を守るための防衛本能と闘争本能があり、それぞれに合った防衛方法を編み出してきた。人間は他の動物より高い知的能力によって、武器を使って闘うという方法を編み出した。武器を使って闘うのは、体力の弱い人間としてはやむを得ない。それをやめるというのだから、さすがの釈迦も、孔子も、ソクラテスも、キリストも思い付かなかったのではなかろうか。
動物や生き物の防衛本能、闘争本能という生まれつき持っている性質を放棄しては生存できないと考えていたのではなかろうか。戦争を放棄するとして、そのためには武器も持たないという考え方は、優れた哲学者でも、宗教家でも思い付かなかったのではなかろうか。
武器を使って闘うということは、人類としては防衛上、やむを得ない行動であると思われ、それをやめなければならないという考え方は、生まれる余地がなかったのであろうことは、理解せざるを得ない。
かつて、どの国も考え付かなかった戦争放棄という哲学を日本国憲法に取り入れたのは、日本国民である。敗戦がきっかけになったことは間違いない。占領軍などの影響があったことは否定できないが、最終的には日本国民が戦争放棄を決めた。日本国民は戦争を放棄し、武力を保持しないことにしなければ、人類は人類同士の闘いで滅亡してしまうと気付き、憲法に「戦争の放棄」と「武力の不保持」を宣言したのである。
〈人類史上最高の哲学〉
日本国民は、これ以上武力を持って戦争したら、人類は滅亡するとの危機感から、戦争はしてはならない状況となっているという認識を持つように至った。その結果、人類同士が武力を持って闘うという戦争を放棄することにして、戦争に使う武器を持たないことにしたのである。
これは人類史上最高の哲学であり、日本国民は人類史上最高の哲学者だと思う。それは広島と長崎に原爆を投下さけた日本国民の悲痛な叫び声と受けとめることができる。最大の犠牲の上に、最高の哲学が生まれたといってよい。
日本国民は、このことを意識しているのだろうか。拳法9条を声高に叫ぶ安倍元首相などの政治家はどうであろうか。憲法9条は人類史上最高の哲学、つまり人間の生き方として行き着いた最高の価値を持つ考え方である。人類滅亡を回避するための唯一最高の方法を思い付いたのである。
それまで多くの優れた宗教家や哲学者や思想家や科学者が、人類の中から輩出されたが、国が戦争を放棄すべきであるという哲学は、誰も提唱できなかったのではないかと思う。私の知る限りでは、少なくともそういう国はなかったのではないかと思う。
それをなしたのは、日本国民だ。一人の優秀な人間ではなく、日本国民という大衆だ。ここに大きな意味がある。戦争という悲惨な体験をした大衆が作り出した哲学であることに格別の意味がある。
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