〈故・安倍元首相の姿勢〉
地方弁護士の社会的使命は、人命と人権を守ることにあると述べた。そして日本国憲法は、人命と人権に究極の価値を認め、その人命と人権を侵害する最大の暴挙である戦争を放棄すると定めた、と述べた。その憲法を守り、人命と人権を守ることは、日本国民一人一人の責任ではあるが、特に弁護士という資格を与えられている者の最も大事な社会的使命であると確信している。
地方弁護士も弁護士である以上は、人命と人権を守ること、そしてそのためには憲法9条を守るための積極的な行動を取るという任務を果たさなければならない、と述べた。抽象的には、人命と人権を守ることが、地方弁護士の社会的使命であると強調した。そして、ただ頭で考えるだけでなく、具体的な行動が必要だとも述べた。
ここからは、地方弁護士が憲法を守るための積極的な行動を取るには、具体的にはどういう行動をとるべきかを述べたい。自分自身は、どうしたいかを考えてみたい。
思い付くまま述べれば、①憲法の伝道師になりたい、➁憲法の番犬となりたい、➂地方住民の代言者になりたい、④強きをくじき、弱きを助ける者になりたい、⑤人生の案内人になりたい、ということである。憲法の伝道師になりたいということに関しては、既にこれまでに述べた。ここでは憲法の番犬になりたいということについて述べる。
故・安倍元首相は、憲法改正は自民党の党是、つまり自民党の政治上の基本方針だとして、9条を改定し、日本を戦争のできる国にし、米国の要請に応え、米国と一緒に戦争の出来る国にしようとしていた。第一次安倍内閣時代にも、第二次安倍内閣時代にも、そして首相を退任した後も、自民党最大派閥の代表者に止まり、その主張を強く言い続けた。あの手、この手を使って、その目指すところを実現しようとしていたように見えた。
しかし、何故そうしなければならないのかの彼の哲学は、あまり明白ではない。ただ、権力の座に座りたいだけのように思えた。米国の要請に応え、自分の立場を保持したいだけのように思えた。アメリカは、ロシアや中国などの関係を考えると、日本を戦争の出来る国に戻し、アメリカと一緒に敵対する国と対峙してほしいと思っていることは分かる。その求めに応じることが彼の立場を利すると思っていたのであろう。
彼には、哲学や憲法学の素養があるようには思えない。強いものに従って、我が身を保とうとしているようにしか見えなかった。米国の意向に添うことで、その勢力を保っていたように思えた。また、その安倍首相から大臣に指名してほしく、その気持ちを忖度する国会議員や役人が多かったのにはうんざりした。
安倍元首相に限らず、国会議員には、憲法を守ってほしいのは勿論だが、人間はどう生きなければならないのかという生き方というか、哲学を持ってほしい。それは法律以前、政治以前になければならない人間性の問題である。
〈早いうちに摘み取るべき9条改定の芽〉
安倍元首相の考え方に対しては、国民の多くは反対していると信じてきた。常識的な国民なら、誰だって反対するだろうと思っていた。日本国民の多くは、戦争絶対反対という考え方であることは間違いない。
しかし、最近の世論調査の結果などをみれば、安倍元首相の考え方に賛成する意見と反対する意見との間には、それほど大きな差がみられない。プーチンのウクライナ侵攻が始まってからは、却って9条改定に賛同する国民も増えているようにも見える。国防の必要を感じている国民が増えているということなのだろうか。軍事費の増額を許す国民も増えているようにも見える。
しかし、戦ったら多くの死人が出る。国防より、戦争をしないで死人を出さない方が大事だ。それが人命と人命を守るということである。
政治家の多くは、安倍元首相の考え方になびいているように見える。このような現状は、9条の危機と考えなければならない。このような傾向が強くなれば、9条改定の機運が高まらないと言い切れない。9条の危機と考えてもよい。少なくとも、その芽が出ていると言えそうだ。
この危機は、どのようにしても阻止しなければならない。9条改定の芽は、早いうちに摘み取らなければならない。そのため第一次安倍内閣誕生と同時に講演で、出版物で機会がある度に、安倍政権の憲法に対する考え方の誤りと、9条改定危機、9条改定阻止を訴え続けてきた。これに関する30冊の駄弁本を発行し、今尚、書き続けている。
地方弁護士は、地方住民に対し、9条が改定され国民が戦場に送られ、人命と人権が国によって侵害されることになりかねない危機が迫っていることを知らせることが、地方弁護士の差し迫っている任務であることを強く自覚し、地方住民に知らせなければならない。
使役犬(ワーキングドッグ)に例えれば、番犬的役割を果たさなければならない。それは現在、地方弁護士の喫緊の社会的使命と言わなければならない。そんな思いで、この一文を書いている。差し迫っているという考え方には異論もあろうが、物を言える時に言わないと、言えなくなる心配がある。そういう意味では、差し迫っていると言ってもおかしくはない。
弁護士、従って地方弁護士も憲法の番犬とならなければならない。吠えられる時に吠えなければならない。
(拙著「地方弁護士の役割と在り方」『第2巻 地方弁護士の社会的使命――人命と人権を擁護する――』から一部抜粋)
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