司法ウオッチ<開かれた司法と市民のための言論サイト>

 

 裁判というものの帰趨に、裁判官の心証というものが大きく影響するだろうことは、私たちのような素人でもある程度分かっていたつもりだった。この言葉は、弁護士自身の口からも、度々聞いていたような気もする。そのこと自体は、もちろん弁護士がついた裁判であろうが、本人訴訟であろうが変わらないはずだ、と思っていた。

 

 ただ、そのことは本人訴訟の方が、裁判当事者にはるかに重く感じられることになるのを、私は知った。それは、もちろん、一つには裁判官の心証に関して、弁護士からのサゼッションが得られない、つまり、私たち素人の対応のうち、専門家の立場からみたならば、控えるべきこと、修正すべきことなどを知らされないこと。有り体にいえば、どこかで自分たちが「地雷」を踏んでしまうのではないか、という不安を抱えたということだった。

 

 裁判官は、もちろん結論において中立な立場だろうと認識してはいたが、もはや専門家の支えがない私たちにとって、いまやその存在は、この裁判のフェアな遂行を支えてくれることを期待できる唯一といっていい専門家であるという意識もあったかもしれない。つまりは、こちらが素人であり、弁護士がいないことで発生するかもしれない不利益の扱い(ある程度手を差し伸べることを含め)は、個々の裁判官の裁量によって異なるのではないか、という捉え方が、少なからず私のなかにあったように思える。心証は、きっとそれにかかわるテーマとなっていたのだ。

 

 被告に対する裁判官の質問は、決して詰問調ではなく、穏やかな調子で続けられていた。ところが、ある時点で被告の態度が豹変した。明らかに不貞腐れた、傍目にも悪い態度に変わったのだ。裁判官の質問は、この被告女性の親との同居や生活態度にまで及んでいたが、答えにくかったのか、うんざりしたのか。暴言こそ吐かなかったが、そこには明らかな反発が読みとれた。

 

 私はその変貌ぶりに正直驚いたが、その一方で、裁判官の心証では、このことが相手側にマイナス、当方にプラスに働かないか、という気持ちが湧いていた。不思議な捉え方かもしれないが、その時の彼女の態度は、弁護士がついている余裕から生まれているように、私には見えた。まるで裁判官を挑発、威嚇するようにみえる不遜な態度だった。

 
 
 だが、それは裁判官には全く通用しない、まるきり心証という意味で、自爆的な態度、彼女は「地雷」を踏んだと、私には思えた。裁判官は依然としてポーカーフィエスを崩していなかったが、私にはその目の奥底は違ってみえた。あの法廷で、それを読み取ったのは果たして私だけだったのだろうか。

 

 これは、弁護士でもフォローのしようがない状況のように私には思えた。この態度に対して、相手側弁護士も何も動かなかった。誰も注意するわけでもなく、裁判官は冷静な口調でたんたんと質問を続けていた。だが、だんだん私もこの状況に妙な気持ちになってきた。

 

 弁護士はみすみす「地雷」を踏ませるだろうか。ひょっとして、何かここに、弁護士の仕込んだ戦術が隠されているのか。あるいは、こちらの感情を逆なですることで、動揺させようとしているのか、そうでなければ、何でこんな態度を相手弁護士は許しているのだ、明らかに裁判官の心証を害しているような態度を――。

 

 これは、私たちの疑心暗鬼ともいえる、全く的外れのものだったのかもしれなかった。ただ、私たちには、法廷後、この状況を専門家の立場から解説してもらう味方がそばにいないのだということを改めて感じた。そしてただ、裁判所を出てから、あの時の被告人のふてぶてしい態度への怒りが、遅まきながら、私のなかに湧きあがってきたのだった。

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