全国各地で数多くの事件が、テレビ、ネット、新聞、ラジオなど、様々な経路で情報が一般市民へ発信される。当時、私が関わっていた事件も、ネット媒体をもとに情報が発信され、某テレビ局の方が関心を持ち、事件について詳細を聞かせてほしいという話がきた。
民事裁判が始動した数週間が過ぎたある日、午後7時を回った頃だろうか、姉から私の携帯に連絡が入った。「東京のテレビ局の人らしいのだが、今、関わっている事件について話を聞かせてほしいと連絡がきたんだけど、どう返答すればいい?」と、少し不安そうに聞いてきた。東京のテレビ局から電話?一体なぜ、地元の有力紙が、全くといっていいほど、取り上げなかった事件をなぜ、東京のテレビ局が目をつけ興味を持ったのだろうか。刑事事件では、被害額「15万円」で確定され、地元有力紙では、まともに扱われなかった事件だ。数百万単位で刑事裁判が立証し、決着ついていれば、事件としての話題性もあり、世間の注目が集ってもおかしくないが。
姉もなぜこの件で、テレビ局からいきなり電話がきたのかをいぶかしがりながら、私に東京のテレビ局のKさんという人に、一度連絡してくれないか、と言った。民事裁判も始まっており、戦々恐々とした緊張が続く中、例えテレビ局関係の人とはいえ、他人と話すのは少し抵抗があった。いろいろなことを話すことで、かえって民事裁判に何等かの支障がでないかが心配だったのである。今、思えば、それだけ神経質になっていたのかもしれない。
翌日、私は半信半疑で、テレビ局関係Kさんという方に連絡を入れてみた。それと、同時にいくつかの疑問を率直に投げかけてみた。まず、どこで、この事件を知ったのか。また、どのような経緯で連絡先を得たのか。どういった番組で、主旨は一体何か、である。
応対してくれたKさんは前記質問に丁寧に回答して頂き、この事件を知った経緯は把握できた。Kさんは、テレビの番組制作会社の人だった。Kさんに関心をもったのは、ネットで「介護ヘルパー窃盗」という記事を見かけたのがきっかけだった。その後、事件の詳細を聞くため、地元社会福祉協議会に連絡したところ、対応した社協事務局は電話で、「まさか、ヘルパーが窃盗するなんて思ってなかった」と対応し、この件について被害者はどう思っているかについて聞くと、直接被害者側に聞いてほしいとして、連絡先を渡されたということだった。
私は彼と一度会うことにした。社協事務局長が主張する「まさか、ヘルパーが窃盗するなんて」などという、なまぬるいムードを払拭するため、事件概要に関する資料を持っていき、真実を語ろうと決意した。
私が住んでいる駅近くの喫茶店で、番組制作会社のEディレクターさんとアシスタントのKさんと落ち合い、事件の経緯について、約2時間ほどかけて説明した。どこまで、真実を理解して頂けたかは定かではなかったが、民事裁判中、緊張していた気持ちは話すことで、少し晴れたような気がした。
担当している企画は「介護保険」の問題性を追及するものだった。帰り際に、番組・ディレクターさんにこう告げられた。「数多くの介護に関連する事件を取材しているため、この件を扱うかどいうかはわかりませんのでご理解下さい」。私自身、取り上げてくれるかどうかは、正直意識していなかった。むしろ、事件の真相を知ってもらいたい、そんな刹那的な思いの説明で精一杯だった。
あまり覚えてないが1週間過ぎたころだろうか、ディレクターEさんから、私の携帯に本格的に取材がしたいと申し込みが入った。電話を受けた私は、内心驚いた。まさか、こんな展開になるとは夢にも思わなかった。まさか、うちの事件がテレビ番組に取り上げられるなんて。再度、確認のため、番組名を聞くと、テレビ東京の「ガイヤの夜明け」だった。しかも、前回、放送され視聴率がよかった、「介護保険のでたらめ」の続編だという。
驚きとともに、うれしさも込み上げてきたが、半面、こんな事件が表ざたになることで、私の郷里に悪いイメージは残さないだろうかと、不安になった。しかし、結局、真実を世間に知ら示す使命感のようなものが、私をテレビ出演へと突き動かした。