担当裁判官の「結局、カネか」の話に驚いたC弁護士からの求めに応じて、私たちはその裁判官名を彼に告げた。一瞬、彼の表情が固まったように見えた。
「あっ、彼か。知っているよ。しかし、彼がね、そんなこと言うとは、想像もつかないね」
C弁護士は、首を傾げながら、さも納得できないといった様子でそう返してきた。担当裁判官の別の顔を、C弁護士は、知らなかったのだろう、そしてそもそも裁判官のこうした言動に、彼はこれまで遭遇したことがなかったに違いない――。
そう考えると、やはり私のなかには複雑な気持ちが込み上げてきていた。やはり、あの態度は素人である私たち、本人訴訟の当事者であるがゆえのものだったのか。弁護士が付いていれば、絶対に見せない顔をあの担当裁判官は見せたのだろうか。
そう思いながら、私は彼に「知り合いなんですか」と、尋ねた。
「まぁね。彼はよく私に電話で相談してくるんだよ」
C弁護士は、さらりと答えてくれた。この発言には、ちょっと驚いた。個人的なつながりはあり得る話ではあるが、裁判官と、元検事の弁護士の間で、そんなやりとりまでされているとは。司法の世界では、業界のノウハウをよく知っている大先輩という位置付けで相談するのは、極普通のことなのだろうか。私たちは、とにかく知らないだけなのかもしれない。
しかし、その一方で、「裁判官と弁護士=連絡取り合い」という事実にやはり私は強い違和感を持ってしまった。
「彼とはついこの間も話したばかりだよ。彼が声を荒げるとはねぇ。それはいかんな
C弁護士は、首を横にふりながら、そう話した。
もう一度、「あの裁判官とはお知り合いだったのですか」と尋ねると、彼は何かまずいという気持ちが湧いたのか、やや言葉を濁した。
「まぁ、知り合いというか、うーん」
少し歯切れが悪くなり、話に間が空いた。この関係は、オフレコ扱いなのだろうか。私は、この際だからと、心に決めて、聞きたいことを彼にぶつけてみた。
「あの、お話の流れから、想像したのですが、裁判官と弁護士の癒着というのは存在するのですかね」
彼は、即座に返してきた。
「僕と君の担当裁判の関係かね?それはないよ」
今にしてみれば、随分失礼なことを、尋ねたと思う。だが、その時、なぜか彼の、そのこの言葉に偽りはないように感じとれた。彼からは本当のことか聞けるかもしれない。私は続けた。
「いや、一般的な話も含めてです。以前も、そうした胡散臭い話を耳にしたことがあるものですから」
すると、C弁護士の表情が一変した。
「いや、絶対ない。ただし、今はな」
そう言うと、彼の話は、自分の実体験を含めた昔話へ切り替わっていった。