司法ウオッチ<開かれた司法と市民のための言論サイト>

 息子が一人でプンプン怒っているので、どうしたのかと聞いてみると、息子の通う学校で、同級生同士が「法的トラブル」になっているのだという。子ども同士のちょっとした口論だったものが、つい、一方がメールに「殴るぞ」というようなことを書いてしまったところ、相手の親の代理人という弁護士から、内容証明で、謝罪と損害賠償を求める催告が送られてきたらしい。

 通知を受けた子は息子と仲がよく、息子は憤懣やるかたない様子だ。通知を出した相手の子やその親にも怒っていたが、弁護士にも手厳しい。「弁護士って、こんなことに首を突っ込んでくるの?ただの子どものけんかじゃん」と聞かれ、「いやあ、どうだろうなあ」と、うなるしかなかった。「お父さんだったら、頼まれても絶対受けないなあ」とも答えると、息子も少しは納得したようだが。

 息子にはあまり話をしなかったが、正直なところ、この話には、耳を疑った。アメリカ型の訴訟社会が、そこまで現実味を帯びてきているのか、という思いだった。

 自分に常識というものがあるのかどうか、あまり自信はないが、いじめが絡んでいるわけでもなく、だれかが怪我をしたというわけでもない、どこでもあるような子ども同士のけんかに弁護士として関わりたくはない、そうした感覚は、たぶん、多くの弁護士にとって、これまでは常識の範疇だったのではないか。

 猫を電子レンジで乾かそうとした消費者がメーカーに損害賠償を請求したという、一時期のアメリカのような、滑稽な訴訟社会は、日本では考えにくい。国民性もあるし、弁護士の常識として、あんまりみっともない事件は起こせない、という不文律が、司法の暴走を食い止めてきたという側面もあったはずだ。

 しかし、仕事がなくなれば、無理な事件でも、否応なく受けなければ、弁護士も喰っていけない。私自身も、例外ではなかろう。最初は、恥を忍んで、無理筋の事件を受け、そのうち、感覚が麻痺して、勝ち目のない事件だと分かっていながら、着手金ほしさに提訴を勧めることが普通になっていく。顧問先がいっぱいあるわけでもない自分が、そうならないといいきる自信は、今のところ全くない。私にとって、このレベルのモラルハザードは、すでにかなりのリアリティーを持ちつつあるようだ。

 それにしても、やっぱり、子どものけんかに介入する弁護士にはなりたくないものだと思うのだが、私のモラルは、まだ少しは高いところにあるのだろうか。



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