司法ウオッチ<開かれた司法と市民のための言論サイト>



 〈多種多様な人と悩みに接する仕事〉

 地方弁護士を長くやってきて、地方弁護士の社会的使命と言えるかどうかはともかく、生き方に悩む地方住民と一緒に、生き方を考えることは、法律の条文や判例の知識を切り売りするよりも、より大事な役割となってきていることを実感している。地方で開業する弁護士の面白さとやり甲斐は、毎日多くの人と会い、その悩みを聞き、その悩みをどのように解決しようかと、クライアント(相談者)と一緒に考えることにある。

 それを50年を超えて毎日やっていたら、馬鹿な我が身でも司法試験のために勉強して得た法律知識以上に生き方の知恵が身に付いたような気がする。その知恵を地方住民に説き広めることは、法律知識を切り売りする以上に、地方弁護士の社会的使命としては大事であると確信する。それは法的紛争に限らず、日常発生する悩み事全般に及ぶ。地方住民の生き方に関する悩み事のすべてに老馬の智をもって役に立ちたい。

 そんな思いで、「大衆法律学――わかりやすい法律」シリーズ50巻の他に、「患者から見た医療」シリーズ20巻、「わかりやすい哲学」シリーズ10巻を発行した。さらに中小企業の経営に関する本として、「保証――情が仇」として保証契約の問題点や会社合併の時期などについて述べた駄弁本を発行した。駄弁本は、地方住民の生活全般に及んでいる。

 高齢者となってからは、高齢者の生き方に関する駄弁本を多く発行し続けている。「病を楽しむ生き方を語る」や「年寄りのための童話」などという駄弁本を数多く発行している。死期が迫っている老人が、どう死を迎える準備をするかという問題は、誰にとっても避けられない根源的問題であり、その悩みを一緒に考えることもしたい。

 「人生は、どのように生きるべきか」というテーマ(題目)で講演会も数多く開催してきた。平成30(2018)年5月12日に岩手県一関市の文化センターで「病気と生き方を語る集い」を開催したところ、知人と友人だけで500人収容の会場は満席となった。これは、地方弁護士を長く続けてきたからできたことだ。これは地方弁護士として、法律に限らず、医療のこと、事業経営のこと、人間関係のこと、生き方のことなどを地方住民に発信し続けたことによるものであると確信する。

 中央で大きな組織を相手にしている弁護士や、世界を股に掛ける弁護士とは違い、地方で開業する弁護士は目立つような大きな仕事はないが、毎日異なる人と、異なる悩みに接することができる。会う相手も多種多様であり、その相談内容や悩みも多種多様である。毎日異なる人と異なる悩みに接することができることこそ、地方弁護士の魅力であり面白さである。それに全力でぶつかれる仕事が、地方弁護士のやり甲斐である。


 〈要件事実と立証責任だけで生き方は語れない〉

 地方弁護士が、その仕事から学ぶことは無限である。法律問題の解決だけに止まらず、クライアントの人生に関心を寄せれば、そこから学ぶことは法律に関するものに限らず無限にある。悩みを持って相談に来るクライアントは、生き方を考える最高の教材と言える。そのクライアントから要件事実だけを聞き出せばよいなどと考えては、地方弁護士としては、大事な部分を捨てていることになり勿体ない。

 法律問題に関する話を第一の話とすれば、クライアントの身の上話や、経歴や人脈や趣味や生活ぶりに関する話は、第二の話と言える。この第二の話の方が面白いし、生き方の参考になる教材が含まれている。問題解決のヒントも、この中に隠れていることがある。第二の話の重要性が分かるようにならなければ、老馬の智は生まれてこない気がする。要件事実と立証責任だけにこだわっているうちは、まだまだ老馬の智には達したと言えない。要件事実と立証責任だけでは生き方は語れない。

 弁護士法1条は、「弁護士は基本的人権の擁護し、社会正義を実現することを使命とする」と定めているが、一人一人の人間が、「この世に生まれ、幸せな人生を送れている」と思えるような社会を創ることが、地方弁護士の社会的使命だと確信している。

 地方弁護士となって55年が経ったが、その使命を少しでも果たしてきたのかと振り返ると、忸怩たるものがある。しかし、そういう思いで、老婆心とも思われるような行動は成してきたと自負している。これからも続ける。

 (拙著「地方弁護士の役割と在り方」『第2巻 地方弁護士の社会的使命――人命と人権を擁護する――』から一部抜粋)


 「地方弁護士の役割と在り方」『第1巻 地方弁護士の商売――必要悪から必要不可欠な存在へ――』『第2巻 地方弁護士の社会的使命――人命と人権を擁護する――』『第3巻 地方弁護士の心の持ち方――知恵と統合を』(いずれも本体1500円+税)、「福島原発事故と老人の死――損害賠償請求事件記録」(本体1000円+税)、都会の弁護士と田舎弁護士~破天荒弁護士といなべん」(本体2000円+税)、 「田舎弁護士の大衆法律学 新・憲法のこころ第30巻『戦争の放棄(その26) 安全保障問題」(本体500円+税)、「いなべんの哲学」第1~27巻(本体1000円+税、13巻のみ本体500円+税)も発売中!
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