司法ウオッチ<開かれた司法と市民のための言論サイト>

 このところ、顧問先で、パワハラについて話す機会が多い。

 厚労省の統計だと、都道府県労働局等に寄せられた労働相談の中で、パワハラに関するものは、平成14年が6600件だったのが、昨年は51000件に上ったそうだ。割合でも、労働相談のトップを占める。パワハラが増えたというよりは、パワハラが人権侵害の違法行為だという認識が広まった結果なのだろう。

 医者の不養生という言葉を地でいくように、法曹界にはパワハラの温床があるというべきだろう。今はどうか分からないが、20年ほど前の検察庁は、あちこちでパワハラが見受けられた。当時の東京地検は、刑事部に副部長が5人いて、このうちの4人が担当方面毎にヒラ検事の捜査に決済を下していた。副部長によって多少の差はあるのだが、基本的に4人とも強面揃いで、実際、指導は厳しかった。いや、厳しすぎた。

 実は私の同期は、検事任官直後に自殺している。旧帝大在学中に司法試験に受かった秀才だったが、官舎で手首を切った後、一命を取り留めたものの行方不明になり、半年ほどしてから、失踪直後に電車に飛び込んでいたことが分かった。

 この同期を担当していた副部長は、多くの検事達から恐れられていた人で、怒鳴られるのは当たり前。中には、調書がなっていないと、いきなり記録を床に放り投げられた人もいた。検察庁は体育会系だと聞いていたし、当時はそんなものだろうと思ってはいたが、やはり、司法試験まで通ってきて、部下もいる身でありながら、頭ごなしに怒鳴られる日々が続くのは耐え難かった。結局、同期は、1年目で1人死亡、私ともう1人が退官してしまい、その後も、他の期に比べ、退官者の割合は多いようだ。

 日ごろ、パワハラは、加害者と被害者の個人的な問題ではなく、職場環境の悪化が様々なトラブルを派生させる労務管理上の問題なのだと説いているが、改めてそのとおりだと思う。この20年に相次いだ検察不祥事も、パワハラが常態化した職場環境の問題に収斂する部分も多いのではないか。検事任官者が極端に少なかった昔でさえこうなのだから、代わりがいくらでもいる現在は、若手検事の心理的圧迫感はさらに強まっているのかもしれない。

 さすがに、近時は、大規模庁では露骨なパワハラは見受けられなくなっているようだが、地方や支部などではどうなのだろうか。パワハラ体質を根底から変えないと、組織はいずれ腐食していく。検察不祥事が、その前触れでなければいいのだが。



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