司法ウオッチ<開かれた司法と市民のための言論サイト>

 

 兄の友人であるオンブスマンKの紹介してくれる弁護士に会うため、Kと兄、私の3人は、その弁護士の事務所へ向かった。正直、弁護士には、これまでいろいろな気持ちにさせられてきたが、やはりこれからの私たちの闘いに強い味方になってくれるのではないか、という期待感は湧いてきていた。

 

 「やぁ、K君久しぶりだね」

 

 事務所のドアを開けると、C弁護士は機嫌よく声をかけ、私たちを気持ち迎えてくれた。

 

 「ところでK君、お父さんは元気かね。不動産の景気はどうかね」

 

 彼の父親のビジネスの話から始まった。C弁護士が、私と兄をちらっと見て、「さぁ、どうぞ、席についてくれたまえ」と促したが、再び、「先日の相談された例の件はどうだった?解決したかね」といった調子でK君と話し続けた。古いお付き合いなのだろうということがうかがえた。のちに分かったが、C弁護士は、Kの父親が経営する不動産会社の顧問弁護士を務めていたのだ。KとC弁護士のビジネス上の取引関係があったからこそ、この場での対面が可能となったのだった。

 

 C弁護士の事務所には、多くの雑誌が氾濫していた。その1冊を手に取ると、Kと話していたC弁護士はこちらを向き、「それ、私が手がけた事件だよ」と自慢げに語ってきた。彼の扱った事件がその雑誌に報じられていたのだ。勝ち敗けについて聞くと、「負けちゃったけどね」と苦笑いをしながら、その事件の真相について手短に話してくれた。

 

 「当時、僕は、地元・行政側についていたんだ。市民と行政との間に起きた裁判だったんだ」

 

 私も、この裁判のことは知っていた。地元では、ニュースでも大きく取り上げられたことから記憶にもあった。のちに分かったことだが、彼は元検事で、弁護士としても、過去には週刊誌に掲載されるような大きな案件も抱えた実績の持ち主だった。ただ、その時は、敏腕弁護士なのかな、という印象とともに、「行政側についていた」という言葉に敏感に反応している自分に気が付いた。

 
 私たちも地元・行政を相手に闘っている。行政側の裏を知り尽くした人間として私たちの味方になってくれるか、それとも向こうに通じている人間として警戒すべきなのか――。

 

 彼は、私たちがもつ案件について、どう対応してくれるのだろうか。そんな期待と不安にかられながら、私たちがここに来た本来の趣旨とは違うKとC弁護士の会話が終わるのを待っていた。



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