思わぬC弁護士の反応と、昔話で話が私たちの裁判からそれたが、彼の第一審の結果を見せてみろ、という求めで、ようやく本題に入れるという気持ちになっていた。私は、バックから第一審の判決を取り出し、彼に差し出した。
「おお、これは、凄いな、おまえら、凄いよ」
渡した資料をパラパラとめくり、さらりと目を通した彼の口からは、こんな言葉が返ってきた。私たちのやってきたことと、この結果を正直に驚き、ほめてくれたと受け取れた。彼が、賛辞をくれたのは、当初、こちらの主張する窃盗額と、それに付け加えて、裁判期間の5分の利息ということになった、その結論部分についてだろうと思っていた。しかしながら、C弁護士の言っているのは、そうではなかった。
C弁護士は、目を丸くしながら、こう言ってきた。
「よく、裁判官に、ここまで認めさせたな」
彼か一体、どこに驚いているのか分からなくなってきた、私は、率直に考投げかけた。
「一体、何が凄いのでしょうか」
C弁護士は、ニヤリと笑うと、「ここだよ」と、判決の文面の一箇所を指さした。
「よく見ろ、凄い事が記載されてあるぞ。この裁判での勝利の実績は、窃盗額だけではないぞ。窃盗金額分の社協に対する、差し押さえの権利まで記載されているぞ。お前さんたち、相当、お灸をすえさせたな」
私は、彼の指さす箇所をのぞきこみながら、なんだか狐につままれたような気分だった。そうか、差し押さえの権利か、と。社協が扱っている、車や介護用品等、判決の猶予内であれば、差し押さえは可能ということだったのか、とその時、改めて理解した。
C弁護士は、この判決の見所は、この差し押さえ部分だと説明してくれた。この部分があることが、彼のいう「相当にお灸をすえさせた」ということであり、専門家からみて、この判決の「価値」を判断する要素だったのか、と納得した。流石はプロの弁護士という気持ちとともに、正直、素人目線では、完全に見落とし、そこまで判決の「価値」を把握することができてなかったことが悔しかった。
成果としては、もちろん喜ばしいことではあったが、これもまた、プロがそばにいない本人訴訟の現実か、という気持ちになった。
それから、C弁護士は、もう一度、判決文と、裁判官の名前を確認した後、うなずきながら、こう言ってきた。
「おまえたち、凄いな。この人によくここまで認めさせたな」
この女性裁判官を、ご存知なのですか、と聞くと、C弁護士は、知っているよ、と首を縦に振り、感心するように言った。
「あの方は、部長クラスだ。裁判官の中でも、地位が高い人だよ。よく、ここまで頑張ったな」
これまた、私たちが知らない、法曹関係者しかほとんど分からないような内情を告げられ、私は驚いた。これもC弁護士に会いに来た成果だったが、やはり私たち素人だけでは知らないことだらけだ、と思うと、少々複雑な気持ちではあった。