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 〈はしがき〉

 
 最高裁大法廷2011年11月16日裁判員制度に関する判決(以下「大法廷判決」として引用する。)については、これまで多くの判例、評釈がなされている。その評釈の殆どは、その判決後1、2年のうちに公にされたものであり、私が昨年上梓した「裁判員制度はなぜ続く」(花伝社 以下「拙著」という。)のなかで取り上げた問題点に触れたものは、元東京高裁判事大久保太郎氏による「裁判員制度の落日」(上下)(判例時報2312、2313号)を除いては、これまで見当たらなかった。

 

 今回偶々、柳瀬昇教授の論説(「裁判員制度の憲法適合性」日本法学82巻3号p126以下、2016年12月)に接することができ、その中で、拙著で論じた論点の一部について批判的に論じられているので、その点も含めその論説について私の見解を述べたい。

 

 

 〈上告理由限定の点について〉

 
 上記論説(以下特に断らない限り「論説」として引用する。)は、同事件において弁護人が裁判員制度の憲法問題に関する上告理由として憲法80条1項本文前段と76条1項・2項前段の2か条のみの憲法適合性を争点化しようとしたことを認め、検察官の答弁書もそれに応じたものであることを認めている。しかし論説は、どういう訳か、原審東京高裁判決も同様に解していることは取り上げていない(後記のように、それは極めて重要な点であるのに)。論説は、大法廷がその上告趣意以外の憲法条項についても判断を行っていることについての私の批判意見を紹介した上、次のように述べて大法廷判決を擁護する。

 
 ① 裁判所法10条2号は、最高裁判所の小法廷が裁判できないものとして、同条1号の当事者の主張に基づいて法令等の憲法適合性を審査する場合を除いて法令等が憲法適合的でないと認める場合を規定しており、この条項は、すなわち裁判所が当事者の主張に基づかずに職権で法令等の憲法適合性を審査することができること、あるいは、裁判所の憲法適合性の審査は当事者の主張する範囲に限定されず、当事者の主張していない憲法上の争点についても裁判所が職権で判断を行いうることを示唆している。
 ② 裁判所の憲法適合性の審査が、当事者の主張した争点に限定されると解しても、争点はその弁護人自身の要約する2か条の適合性問題に限定されていたと解すべきではない。その2か条の適合性と論理的に関連づけられたものは前提問題としてその検討が不可欠であったと解される。
以上が上告理由に関する柳瀬氏の大法廷判決擁護の根拠である。

 

 

 〈論説①②について共通して指摘し得ること〉

 
 まず、その掲げる意見に共通して言えることは、憲法適合性の審査、判断ということが、最高裁判所の判決の結論、つまり、その事件についての法律上拘束力のある判断を示すことと、審査つまり単なる検討・考察をなし得ることとを混同しているということである。

 

 すなわち、裁判所法10条2号は「憲法に適合しないと認めるとき」と、後記刑事訴訟法411条は「判決に影響を及ぼすべき法令違反があること」とそれぞれ憲法適合性を否定している場合に限定しているのであって、その判断の過程においての審査は必須であるにしても、合憲、違憲どちらの結論に到達しても判断することは可能だなどとは定めていない。論説はそのことには触れず、裁判所法10条2号の引用として同条が「憲法に適合しないと認めるとき」と明確に規定しているところをことさらに「法令等が憲法適合的でないと認める場合」と表現を変えていることに、既にその論法に作為が見られる。



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