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 石破茂首相は、今、自分に突き付けられているこの言葉を、本心ではどのような気持ちで受け止めているのであろうか。党総裁選後から現在に至るまで、メディアやネット空間で、彼に浴びせられることになった「変節」という言葉である。

 党内非主流派であり、安倍政権下にあっても、中枢とは一線を画した立場で時に厳しい目線で筋を通す発言してきたようにとられ、しばしば「国民的人気」と評されてきた彼だけに、総裁選後の彼の姿勢には、多くの人が「異変」と言いたくなる変化を読み取ったはずである。

 解散前の十分な論戦の重要性を強調しながら、一転、予算委員会に応じず、戦後最短となる首相就任8日後の解散と衆院選実施決定。いわゆる「裏金議員」の非公認でのブレた対応。そして、無所属での当選での追加公認の可能性表明。そして、非公認が代表を務める党支部に、公認候補の党支部と同額の2千万円支給――。

 あれほど強調していた国会論戦の重要性よりも、「ご祝儀」票獲得を優先させたような姿勢も、結果的に選挙を「みそぎ」として、少なくとも今回の「裏金」問題の責任や真相解明に後ろ向きととれる姿勢は、彼に対する期待感があればこそ、より裏切りとみられても、それが「変節」と批判されても、当然と言えば当然である。

 今回の衆院製での自民惨敗は、石破政権に対する批判ではなく、統一教会問題や「裏金」問題で火が付いた「政治とカネ」をめぐる問題に対する、自民党の体質そのものへの大きな怒りの反映であることは間違いないが、首相のこうした「変節」への落胆も、その一因との見方もされている。

 しかし、あえて考えたくなるのは、石破首相の心の中である。政治経験豊富な彼が、自らの言動がこうした社会の反応を呼び起こすことを想定できないなどということがあるだろうか。いかにも首相の座についたならば、即座に前言をかなぐり捨て、これまでの政治的スタンスについても宗旨替えしたかのような印象を強く与えるものになるリスクを、彼ほどの経験者でも分からないなどということがあるとは到底考えにくい。

 これについて、メディアの扱いは、ある意味、あっさりしているといっていい。「就任後は、一転、党内力学優先に転じたように見える」(10月28日付、朝日新聞社説)。要は、国民的人気といわれながら、議員に人気がなく、その基盤がない彼が、結局、いざ、政権のトップとなれば、こうならざるを得なかった、ということを印象付けるだけの考察に大方止まっている印象である。彼もまた、例外なく、永田町の住人でもあったのだ、と言っているかのようにも聞こえる。

 「立法府の行政機能を立て直し、熟慮した丁寧な合意形成」「国民の納得のいく合意形成」「政治の責任を果たしてもらいたい」(前掲社説)。メディアはもちろん、あるべき着地点のような注文は石破首相に突き付けている。しかし、新政権発足早々、国民を落胆につながった首相の「変節」を生み出したもの、つまりは列挙したような、前記注文への試みの足を引っ張り、あるいは無効化し、またしても国民の期待を裏切ることにつながりかねない元凶は、そのままだ。まるでそれはそこにあっても、もはや仕方がなく、「言っても始まらない」もののでもあるかのように。

 かつてある閣僚が、「外務省は伏魔殿」と発言して物議を醸した。自民党、官邸、あるいは政界も、やはり国民には見えない「伏魔殿」ということになるように思えてくる。しかし、石破首相が本音として、そう語ることは、おそらくこれからもないだろう。「変節」を彼の政治家としての資質とみるのは、この場合、分かりやすいものかもしれない。しかし、国民の本当の敵の本丸は、他にある、という視点を、やはり国民は持ち続けるべきではないだろうか。



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