オンブズマンKとの長い立ち話を終えて、ようやく元検事のC弁護士は私たちと向かい合って着席した。彼の顔をみながら、どこから話を切り出すべきか、考えていた。私たちの裁判、判決を説明して、今後の対策について助言を求めることを優先するべきか、それともいっそのこと、ダメもとで弁護士として依頼するのか――。弁護士に失望し、そして既に本人訴訟に取り組み、一審を私たちの力だけで勝ち取った、この時点でも、やはり私のなかに、もし、引き受けてくれる戦力になる弁護士がいてくれたならば、という、かすかな望みと期待があった、ということになる。
そんなことを迷っているうちに、C弁護士の方から切り出してきた。
「さぁ、今日は何しにきたのかね」
Kは、何も要件を伝えていなかったのか、と少し驚いた。ことによると私たちの状況も知らないのか、と思いつつ、弁護士なしで訴訟を行っていることを少し話してみた。
「あ、そうだった。ほんの少し、K君からさわりの部分だけは聞いていたよ。で、今日、ここにきた君たちの目的は何だい?」
あっけらかんとした言葉が返ってきた。明確にこちらがまず目的を伝えるのは、当然のことではあったが、C弁護士の態度には、どこか、距離を置こうとする、なかなか懐に入れないものが感じとれた。行政相手の訴訟ということで、早くも警戒しているのだろうか。
ここまできて、遠慮していては、何も進まない。そう思い、冒頭で、「今回来たのは、まず現在進行中の裁判のことです」と改めて述べたうえで、今までのことを包み隠さず、手短に話した。
私は、ここでずっと気になっていたことを、彼に聞いてみたいと思っていた。損害賠償金の話の流れのなかで、私たちに「結局、金か」という言葉をぶつけてきた担当裁判官のことである。あれは、やはり私たちが素人であるから、要は弁護士がついていないから出た態度なのだろうか。あるいは、この裁判官の態度も、本人訴訟ではありがちな話であるということが、弁護士の口から聞けるのかもしれない。とにかく、あの担当裁判官の態度は、私たちの想像を超えたものだったのだ。
だか、この話を聞いたC弁護士の表情は、明らかに引きつっていた。「えっ、それは、本当なのか」と、驚きを隠さずに、何度か聞きなおしてきた。
「一体、だれがそんなこと言ったんだ。裁判官の名前を教えてくれないか」
私たちにとっては、重要な専門家の反応だった。やはり、あの時の裁判官の言動は、司法関係者も驚くようなものだったのだ、と。素人への蔑視があったとしても、それはこの世界で少なくともよくある、当たり前のことではなかったのだ、と。あのとき、私たちが感じた「密室司法」の恐怖は、やはり問題だったのだ、と。
でも、その一方で私は考えた。もし、あのときの法廷に弁護士が付き添っていたのならば、その弁護士はあの担当裁判官にどういう反論をぶつけていたのだろうか。あの時は、私たちも必死に訴え、それがある程度効を奏したが、同じ法律家ならば、あるいは別の言葉をぶつけていたのだろうか。
もっともあれが素人に対する態度であったのならば、そういう展開自体がなかったのだろうし、仮にその展開があったとしても、あるいはその弁護士の態度は、私たち依頼者を失望させるものだったかもしれない。ただ、今、あの担当裁判官の態度の話に、驚き、憤慨する目の前のC弁護士表情を見ていて、この弁護士ならばどうだったのだろう、という思いが、私の中を過ったのだった。