司法ウオッチ<開かれた司法と市民のための言論サイト>

 

 和解か判決か――。私たちにファイナルアンサーを求め、迫ってくる裁判官の声。「どうしますか?」

 

 私たちとしては、とにかく時間が欲しい。それが私たちにとって、公正で納得のいく結果を導き出す道だという思いがあった。しかし、目の前の裁判官は、言ってみればこの裁判結果の直接の利害関係者とはいえない、妊婦である相手方女性弁護士の体調に配慮し、裁判をスピートアップさせようとしている、と、少なくとも私には見えていた。

 

 要するに、私たちに与えられた時間は、事実上無に等しいということか。裁判官の様子からは、そう思えた。和解か判決か、どちらが私たちにとって得策なのかということ自体、もちろん私たちには不透明だ。ここに弁護士がいたら、現在の私たちの状況や裁判所の出方から、どちらが得策かサゼッションするのかもしれない場面なのかもしれない。ただ、今の私には、裁判所がこちらの意向を質しているという以上に、裁判所は和解を勧め、判決に持ち込んでも結論は変わりませんが、「どうしますか?」と言ってきているように聞えた。

 

 今まで、この裁判の民事1審のとき以来、度重なった場外戦を、すべてを受けとめ、もうこれ以上は駄目かという局面を越え、状況をひっくりかえしてきた、という思いは、私たちのなかにあった。家族の団結がそれを支えてきた。しかし、今、いよいよ裁判所から、最終ゴールを示されたような気持ちだった。ここまでなのか、限界か、それで本当にいのか――。何度も自分に問いかけていた。ここまで来て、後悔したくない。

 

 裁判官からのメガ・プレッシャーは続く。「どうしますか?どうしたいですか?」。裁判官がどういうつもりだったかは分からない。裁判では、あるいは当たり前の場面だったのかもしれないとは思う。それでも、素人として、自力で闘ってきた私たちにとっては、この瞬間の裁判官のこの言葉は、高圧的なものにとれた。

 

 「少し、待ってください。考える時間が欲しい」

 

 私は絞り出すように、こう言うのが精いっぱいだった。重圧を感じる間、まるで蒸し風呂同然だった。汗は、滝のように流れ、何も思いつかない。結論をださないといけない状況なのだ。答えにたどりつけない、いつもの疑問が頭の中を、ぐるぐると回っていた。今、プロの弁護士がいたら、どう指南してくれるのか――。

 

 「まず、社協さんと被告一族の方は、一旦外に出て行ってもらえますか。まず、彼らからお話を聞きたい」

 

 業を煮やしたのか、裁判官がそう言ってきた。ザックばらんに、私たちの本心を聞こう、ということか。だが、おそらく裁判官も、きっと私たちに向って、より本心を向き出して、最終判断を迫ってくるのだろう、と考えた。

 

 しかし、その後の展開は少々意外なものだった。彼らが去ると、裁判官の態度は、先ほどのように高圧的に、私たちに結論を迫るものではなくなっていた。より冷静な対応になったようにとれたのだ。

 

 妙なことが真っ先に頭に浮かんだ。先日あった、裁判所にも顔がききそうなC弁護士の顔だった。彼がこの裁判官に、被害者感情を逆立てずに裁判を進行するように、口添えしてくれたのではないか――。裁判官の態度の変化は、私をそのくらい不思議な気分にさせたのだった。

 

 単なる裁判官のテクニックだったのかもしれないし、それもまた、よくあることなのかもしれない。そのC弁護士にこのことを話しても、一笑にふされてしまうのかもしれない。しかし、今、改めて思えば、私にとって、あの時は、それだけ敏感にならざるを得ない局面だったのだ、という気がしてくる。



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