司法ウオッチ<開かれた司法と市民のための言論サイト>

 

 弁護士がいない状況のなかで、私たちは日々、裁判所に提出する書類に目を通した。今までの自らで調べ上げた資料を、裁判官に見せてから後悔しないようにと思いながら。辞任したS弁護士が提出しなかった資料を含め、丁寧に整理し、最終決戦となる法廷に備え、着々と準備をしていった。不思議なもので、資料を何度も読んでいると、その瞬間だけは、緊張が溶けていた。個人的にはこの作業は、仕事上のめんどうな交渉事にも似ていると感じるときがあった。

 

 当時を振り返ると、ある意味、弁護士なしで裁判を挑むことに対しては、徐々にふっ切れていったが、やはり相手方の弁護士をはじめ、被告側に対する構える姿勢だけは、ますます強くなっていったように思う。やはり、こちらに弁護士がいない法廷では、被告側の表情がやけに気になった。こちらを見る表情のなかに、侮ったような下品な笑みを浮かべているように見えて仕方がなかった。

 

 彼らの余裕があるような姿を見ていて、ふとある記憶が甦った。それは、この事件の究明のため、東京から地元へ1泊2日で里帰りしたときのことだった。町会議員に被告側との話し合いのセッティングを頼み、それが実現したのだった。

 

 誰が、どのようにこの事件の真相を握り、操作しているのか。それを知るため、まずは腰を低くて、彼らの出方伺った。同時に、刑事裁判記録の中の気になっていた部分、真実がぼかされた箇所を明確にし、作成する資料の信憑性をあげるために、直接加害者に事情聴衆をした。加害者の女性は、やけに平然と、過去の記憶を思い出すように話してくれた。

 

 その時、犯人の母親の表情は、どんよりと曇り、そしてその眼は町会議員を睨んでいた。しかし、町会議員は、堂々とし、むしろ事実を知りたがっていた様子だった。この時、加害者の母親の表情から、彼女は我々が「和解」にきたものと勘違いしていたことがうかがえた。私たちは、その母親にも、どこの誰が、この件の対応をどのような形で指示をしたのかなどを探った。のちに、この裏取り調査は、高裁段階で町議会の議題へと発展するのだが。

 

 とにかく、私たちが向き合っているのは、単に加害者の女性一人でなく、この事件に関わる組織の人間とそれを支援するプロであり、加害者の女性と家族もまた、その支持のもとに、この裁判への対応がなされていたのだ。そのことを知っている私たちは、それこそ大きな敵であると見ていたのだった。
 

 この後は、相手方の弁護士の指示で、もう彼らとは会うことはできなくなった。彼らからすると我々の存在は、煙たく厄介な存在に見えただろう。
 

 しかしながら、この煙たく厄介な存在の後ろ盾になってくれる弁護士は、もう存在しない。彼らからすれば、今の我々には「ざぁまあみろ」といったところなのかもしれない。そんなことを思うと、なぜか私の中にも、笑いたい気持ちが込み上げてきた。



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