司法ウオッチ<開かれた司法と市民のための言論サイト>

 弁護士探しと刑事裁判記録に時間をとられる日々、ニューヨークの兄から、続々とデジカメで撮影した刑事裁判記録のデータが、私のPCに送られてきていた。ぼやけてみえない部分に関しては、手打ちにて修正してあった。ニューヨークへ戻るやいなやすぐに開始された複写の修正作業は、相当時間を費やしものとうかがえた。

 その作業が無駄にならないように、すぐさまコピー機にかけ出力し、一枚一枚丁寧に、すみずみまで紙に穴があくほど、繰り返し読んでいった。詳しく読んでいると、以前に担当刑事に聞いたことや、検事との会話を思い出すこと面もあった。

 刑事裁判記録・速記録には、白く塗りつぶされている部分が随所にあり、違和感を覚えた。なぜこんなことしているのだろうか。こんなことをして何の意味があるのか。この塗りつぶされているものが、事件解決の糸口になるかもしれないなどと、素人感覚で推測もしたが、雲をつかむような話しだった。

 犯人の供述書内容は、以前口頭で担当刑事や検事から大筋の話通りの内容だったが、様々な角度から読み込取ると、いろいろなことが明確に見えてきた。まず、被告人の女は、お遣いでのつり銭泥棒に始まり、窃盗した回数を数十回と認めていたものの、しまいには、何十回窃盗したか忘れてしまっていたことまで供述していた。

 ある会話が脳裏を過ぎった。以前担当刑事が話してくれた、窃盗犯の深層心理のことである。通常、犯人というのは、悪いことをしている作業中のことは、絶対に忘れない。そこには、スリリングな状況と緊張が存在しているため、現場での行動は鮮明に覚えている――というものだった。

 私は、この供述書を読んで、矛盾を感じた。犯人の女は、数十回窃盗を認めていながら、「忘れた」として逃避している事実。犯人が数十回窃盗を認めざるを得なかったのは、窃盗した金額を通帳に数十回に渡り入金し、貯金を繰り返していた事実があったからだろうと思われる。具体的には、少額の時は、1万~5万円、多額の時は、十万円単位以上。自分で稼いだ給料よりも窃盗した額が多く入金されていた。窃盗した金を入金したり、貯金する行動に関しては、犯人のがめつさというか、いやらしさを強く感じさせた。この部分見ただけでも、犯人の余罪は明白だった。

 私の予測だと、1年半以上にも及ぶ窃盗を、わが家に来ては何度も同じ手口で窃盗を繰り返し、既に惰性的にお金を盗むことで、犯人は介護の仕事をすることより、体に染みつき習慣付いていた。「数十回窃盗」というのは、明らかに嘘で、これは釣り銭泥棒から数えると、既に何百回にも及んでいる。あの忌々しビデオ映像の行動から、そう推測できた。

 一方で、「忘れた」という言葉の裏には、別の角度から推測すると、国選弁護士からの指示もあったのではないか、と思えた。

 だが、いずれにしても、犯人の女の心の中には、窃盗による「快楽」という巨大な魔物が住み着いていたのは確かだった。捜査の流れを追って読んでいくと、彼女は、最初に付き合った男に多額のお金を貸し、その後、その男と別れた直後、他県の新しい男に出会い系で知り合い、交際をすぐスタートさせていた。さらに、自分の借金返済、携帯代、そして最も浪費したとみられるギャンブル依存――。これらの経緯には、底なしの欲の深さが醜いほど滲み出ているように感じた。

 この時、供述書には書かれていなかったが、犯人の通帳のおカネの流れが記載されたデータを再度見ていて、ふとまた、担当刑事から聞いた言葉を思い出した。犯人の実家に行き、畳の裏まではぎ、タンス、押し入れをひっぱり出して捜査したという話だ。現場がいかに真剣に捜査していたのかが伝わった。捜査の全体像を見ても、警察は隅々まで細かく捜査をしているように見受けられた。

 それだけに、犯人の銀行通帳の流れから見ても、「数十回」という窃盗を認めているのに、なぜ立証まで至らなかったのか。捜査側が、ここまでやっているのになぜだろうという疑問が、さらに深まってきたのだった。



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