司法ウオッチ<開かれた司法と市民のための言論サイト>

 

 〈国民の理解増進、信頼向上はあったか〉

 

 裁判員法が施行されてから9年余、現段階で1万3000余件の裁判員裁判が行われ、8万5000人ほどが裁判員或いは補充裁判員になったという(今年7月末速報値)。一方、裁判員の出席率(選定された裁判員候補者数または選任手続期日に出席を求められた候補者数に対する選任手続期日に出席した候補者数の割合)は年々低下の一途をたどり、最高裁もこのままでは制度の運用に支障をきたすとしてその原因探求を始めた。結果は、裁判所としては手の施しようもないものばかりである(拙稿司法ウォッチ2017年9月~10月)。

 

 裁判員が一生懸命考えて下した結論は、あっさり上級審で覆される。裁判員は「何が正しいのかわからなくなった。」と嘆くばかり(朝日新聞2014年5月18日~20日)。参加した裁判員は、ストレス障害を起こして仕事も手につかなくなった(福島国賠訴訟)。せっかく裁判員になったのに、とてもやってはいられないと裁判途中で辞退する人が続出して、一旦裁判をストップして裁判員の選任しなおしが必要になった(2018年2月8日河北新報)。裁判員が暴力団員から脅されて、裁判員裁判は続行できなくなった(2016年5月福岡地裁小倉支部)。

 

 今年6月29日の神戸新聞NEXTは、207日の実質審理期間が予定されている神戸地裁姫路支部の裁判で、裁判員に選ばれた6人のうちの半数が早々に辞退し解任されたと報じていた。

 

 裁判員制度施行後、一体、司法に対する国民の理解の増進はあったのか、司法に対する国民の信頼は向上したのか。制度を推進した人、賛成した人は、その問いに説得力ある論拠を示して回答してほしい。

 

 

 〈見込みが外れた司法審意見書〉

 

 司法制度改革審議会はその意見書で、「国民が自律性と責任感を持ちつつ広くその運用全般について、多様な形で参加することが期待される。国民が法曹とともに司法の運営に広く関与するようになれば、司法と国民との接地面が広くなり司法に対する国民の理解が進み、司法ないし裁判の過程が分かりやすくなる。その結果、司法の国民的基盤はより強固なものとして確立されることになる」と述べていた。

 

 新しい制度を始めようとするときに、懸念材料を並べていては始まらないから、格調高く抽象的言葉を羅列するのは制定者の常套手段である。裁判員法1条は、この審議会の意見を条文化したものであろう。

 

 そのときから、私は何と特殊な、歯の浮くような言葉を並べているのだろうと思っていたが、法制定後14年余、法施行後9年余を経て、司法に対する理解が進んだとか、国民的基盤が強固なものになったとか、お世辞にも言えない状態になっている。逆に、その間に下された最高裁の上告趣意の捏造、判断遺脱判決を経て、司法への信頼は揺らぎ、司法では「何が正しいのかわからなくなった」(前掲朝日新聞)と言われるような有様である。



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