司法ウオッチ<開かれた司法と市民のための言論サイト>




 わが国の平和主義のタガがどんどん外れていく――。岸田政権が昨年の防衛装備移転三原則の運用指針改定に続き、また武器輸出拡大方向の方針を決めた。英伊両国と共同開発する次期戦闘機の第三国への輸出を認める閣議決定。昨年、米国ライセンスに基づいて日本で生産する迎撃用地対空ミサイル「パトリオット」の米国への輸出を可能にし、殺傷能力のある武器完成品の輸出に道が開かれたと思えば、今度は戦闘機である。どう見ても、わが国の憲法の平和主義の一線を越えてしまったといわなければならない。

 1976年の三木内閣で武器輸出が原則禁止となった武器輸出三原則を、2014年に安倍内閣が防衛装備移転三原則に変え、一部武器輸出を条件付きで解禁してからの到達点である。政府から聞こえて来る「平和国家の理念堅持」といった論調が、相当危うい方便であることに、国民は気付かなければならない。

 根本的に問われるのは、先の大戦の教訓から生まれた平和憲法の下で、武器の輸出を厳しく制限してきたわが国の姿勢の「価値」である。わが国が守ってきたことの「価値」は、この武器輸出緩和の流れの中で、本当に問われたのか、という疑問で、「これまでは何だったのだ」と言いたくなるような一種奇妙な気持ちにさせられる。

 本当にこの10年の政権担当者は、この「価値」と向き合ったのか。そして、本当にその「価値」を上回るものを見出していると言えるのだろうか。

 奇妙な気持ちといえば、もう一つある。今回の方針が、水面下で輸出解禁を求めてきた英伊の「外圧」を利用した、という報道である(3月27日付け朝日新聞朝刊)。日本側が「外圧」を利用してまで、今回の到達点に至りたかった根本的な「欲求」が存在していたということか。

 2022年改定の国家安全保障戦略の「戦略的アプローチとそれを構成する主な方策」の「わが国の防衛体制の強化」の項の中に、「防衛装備移転の推進」というものが出てくる。

 武器を含む防衛装備の移転が、「特にインド太平洋地位における平和と安定のために、力による一方的な現状変更を抑止して、わが国にとって望ましい安全保障環境の創出や、国際法に違反する侵略や武力の行使又は武力による威嚇を受けている国への支援等のための重要な政策的な手段となる」。そして、こうした観点から、安全保障上意義が高い防衛装備移転や国際共同開発を幅広い分野で円滑に行うため防衛整備移転三原則や運用指針などの見直しを検討する、としているのである。

 振りかざされているのは、またしても「防衛」である。しかし、果たして「わが国にとって望ましい安全保障環境の創出」になるのか、その判断そのものが問われる。日本は武力の行使による紛争解決を放棄している。それを国是としている国が、「力による一方的な現状変更の抑止」と称して、「力による抗戦」を支持するととられれば、その紛争相手国だけでなく、第三国の目にも前記日本の国是は、どういうものに見えるだろうか。「平和国家」として培ってきた日本の信用が損なわれるリスクは、「望ましい安全保障環境の創出」の中で、勘案されているのだろうか。

  「力による一方的な現状変更」の文言は、今、当然にロシアのウクライナ侵攻を連想させる。しかし、既にここでも指摘してきたことだが、ここにおいてもロシアの「力による一方的な現状変更」が批判されるべきものであっても、戦争という手段を使い、国民を犠牲にする「力による現状回復」を日本が支援するとすれば、それは国是に反する。復興など日本がウクライナに非軍事の支援をすることや、ロシアの姿勢を非難することに意義があっても、即時停戦を含めて、日本を平和国家として、その支援の立場を明確にする注釈をつけてもいいはずである。武器輸出での日本の姿勢には、同じことが問われている(「『停戦』を前提としない『支援』の見え方」 「『止めてはならない戦争』という価値観」)

 前記国家安全保障戦略が示唆する武器輸出の「価値」も、日本の平和国家としての貫いてきた筋を、即座に上回るものとはいえない。そして、さらにいえば、それを判断するのは国民でなければならないはずだ。

 岸田政権は今回、「三つの限定」と「二重の閣議決定」という決定プロセスを設けたとして、今回も「国民の理解」を口にしながら、国会が関与する形を提示しておらず、国民的議論を前提とする歯止めを全く念頭に置いていない。武器輸出大国の米国さえ、議会承認が原則となっていることと比較して、この政府の姿勢は、どう評価すべきか、という話にもなる。

 国民も、もう一度ここで、日本が戦後守り、貫いてきた「価値」について見つめ直し、今のこの危機的な事態を捉える必要がある。



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