司法ウオッチ<開かれた司法と市民のための言論サイト>

 

 結局、兄の知人から一度紹介してくれることになっていた弁護士とは、日程が合わず、とりあえず私たちは高裁での裁判に臨むことになった。本当は、その前にその弁護士に会い、これまでの経緯や裁判状況を伝えて、少なくともなんらかのサゼッションを得て、控訴審に向けた準備をしておきたかったというのが、本音ではあった。

 

 裁判当日、私は、東京から地元・九州の裁判所へ直行した。そのときの心境はとても不愉快で、足どりは重かったのを記憶している。内容は覚えていないのだが、不思議なことに、連日、奇妙な夢をみていた。当時の精神的に、それだけ裁判のことで、圧力がかかっていたということなのだろう。仕事や家庭と裁判、どのように両立すればよいのかーー。控訴審に入るのに、まだ出口の見えない問いかけを繰り返していた。これが裁判当事者となった人間の現実、宿命なのだろうか、と思った。

 

 裁判所に入ると、偶然にも一審のときの岡裁判官(仮名)とエレベーターで出会った。笑顔で「ご無沙汰しております」と話しかけると、裁判官は、一瞬きまずそうな表情になり、「あっ、どうも」と頭をさげてきた。ほんの数十秒であるが、時間が長く、同時に空気が重くなるのも感じた。おそらく、社協に我々が控訴されたことを知っていたのだろう。相変わらず弁護士なしで臨んでいる私たちのことも知っていて、どこかで同情しているのだろうか。あるいは、自分の出した判決が受け入れられなかった結果という捉え方を裁判官はするのだろうかーーそんなことを勝手に考え、こちらもなんとも複雑な気持ちが込み上げてきた。

 

 本当は、私からすると、一審判決に対して改めて感謝の気持ちを伝えたかったのだが、あの場の雰囲気にのまれたのか、裁判が控えていて緊張していたのか、そんな言葉が出て来ないまま、私は固まってしまっていた。しかし、このままではいけない思い、私は、エレベーターを出る際, 岡裁判官に拳を握りしめこう告げた。「正義は必ず勝つ」と。岡裁判官は、小声で「頑張ってください」と言ってくれた。その時は、これでいいと思った。

 

 そして、私は、再、法廷への中へ入り、原告の席にこしかけた。家族全員が横並びに座っていた。しばらくすると、3人の黒いマントをきた新たな裁判官が法廷へ入ってきた。また、ここに来てしまったという気持ちが改めて込み上げてきた。被害者である父親とわたしたち家族。本来ならば、司法のご厄介になんかならなくてよかった普通の市民である私たちはいつまでここにつなぎとめられなければならないのだろう――。

 

 相手方には、二人の弁護士のみが腰掛、高裁の裁判が始まった。異様な空気が流れる中、裁判官から、まず、家族一人一人名前を呼ばれた。その後、いくつか門答があり、別室へ移動となった。なぜ、移動するのだろうか?そんな疑問を持ちながら、別室に向かったのを覚えている。

 

 ここから先、暗黒の扉が開いた――今にして、このときのことを率直に表現するとすれば、少々おおげさかもしれないが、こんな言葉をあてがいたくなる自分がいる。重たい闘いが待っていた。



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